甘い罠、秘密にキス
「…別に私は喧嘩がしたいわけじゃないんだけど、でも敵意を向けられているのが分かるから、どうすればいいのか…」
「伊織にちょっかい出すなって、俺が釘刺してやろうか」
「うーん、ここで桜佑が出たらそれこそゴタゴタしそうな気がしない?守られる女だと思われたら、後々なんて言われるか…」
ここにきても、まだ穏便に済ませたいと思っている私は甘いのだろうか。
一応桜佑に彼女がいることは知っているわけだし、本当はこのまま井上さんが桜佑を諦めてくれるのが1番いいのだけど…やっぱりここは、彼女に真実を伝えるべきなのかな。
それでも認めないって言われたら、その時は桜佑に出てもらうしかないのかも。
「…井上さんに、私から真実を話してもいい?」
控えめに尋ねる私に、桜佑は「おお、言ってしまえ」と乗り気の様子。それどころか「手っ取り早く大沢に言うか?」なんて言い出すからタチが悪い。
まぁ、井上さんが言いふらす可能性だってあるわけだけど。
「もう少し真面目に考えてよ。もし私達の関係が社内に広まって、周りの女子社員から妬まれたらどうしてくれんの」
「そん時は本当に入籍すればいい話だろ」
そういう問題でもない気がするけれど、桜佑は「大丈夫、何があっても俺が守るから」と私の頭を撫でる。
その熱に触れられると、本当に何でも乗り越えられる気がするから不思議だ。
「…明日、井上さんと話してみようかな」
「なんかあったらすぐ呼べよ」
「うん…ありがとう」
桜佑って、頼もしいな。もっと早く相談しておけばよかった。
桜佑の背中に手を回し、自分から抱き締める。桜佑の体温が心地よくて、もう少しだけこの腕の中にいたいな…なんて思った直後「もう1回したくなった?」と耳元で囁かれ、ふと我に返った。
「…すき焼き食べたい」
「……」
そうだ、明日の決戦のために体力は残しておかなくちゃ。