甘い罠、秘密にキス
「ごめんなさい…ちょっと話についていけないのですが…」
“イオ様” “ファンクラブ” “推し”
次々と出てくる言葉に、私の頭は酷く混乱していた。
「…あれ、もしかしてイオ様ファンクラブをご存知ないのですか?」
「ええ、ないですね」
「そ、それは大変失礼いたしました。あの、ファンクラブといっても、決して盗撮をしたり、握手を求めるような積極的な活動はしておらず、ただ遠くからイオ…佐倉さんを眺めて癒されるだけの会なんです。でもたまにメンバーで集まって飲み会をして、そこでイオ…佐倉さんについて語ったりして、それがまた楽しくて」
「へ、へえ…」
「ちなみに私は会員ナンバー10ですが、いま全員で18名いまして」
「(結構な人数だな…)」
井上さんはファンクラブについて一生懸命語っているけれど、その規模に唖然としてしまい、思わず苦笑した。
昔から女子にはモテたけど、まさかこの歳になってファンが出来るとは思わなかった。
自分にファンクラブがあることは勿論知らなかったけれど、それより何より、井上さんが私のファンなら、先日の彼女の態度や、ここ数日の桜佑へのアピールは一体何だったのだろうか。
あれはどう見たって桜佑に恋をしていた。桜佑を全力で落とそうとしてた。
それなのに、私のファン?…全く理解が追いつかない。
「佐倉さんの見た目ももちろん素敵なんですけど、その飾らない性格や、清掃作業なども率先して行うところなど、その辺の男より男前なところが…」
「ちょ、ちょっといいですか?話の途中で申し訳ないのですが、私はてっきり、井上さんは桜す…日向リーダーのことが好きなのかと…」
「とんでもない!好きどころか、本命の彼女がいるにも関わらず、佐倉さんを都合のいい女ポジションにしている彼が許せません!」
「都合のいい女…?」
「だって、噂になっている日向リーダーの彼女っていうのは、佐倉さんのことではないのですよね?それなのに佐倉さんを部屋に呼びつけて…あぁ、思い出すとまた怒りで手が震える…」
これは、だいぶ話が拗れているぞ…。