甘い罠、秘密にキス

「…まだ悔しい気持ちはありますが、日向リーダーが悪い人じゃないってことは、この数日間でよく分かりました」

「え、そうなんですか?」

「はい。だってこっちがどれだけ全力で向かっていっても全く靡かなかったから。でも仕事のことになると親身になってくれるというか、手を抜かない人なので、真面目な方なんだろうなって…」


ふと昨日の会話を思い出すと、確かに桜佑は井上さんの気持ちに全く気付いていなかった。
もしかしたら、井上さんの気持ちが本物じゃないと分かっていたからこそ、相手にしなかっただけなのかもしれないけれど。


「それに、大沢さんに日向リーダーのことを聞いたら、彼は浮気するような軽いタイプの人じゃないって言ってました。むしろその彼女のことは本気で大事にしてると思うって」

「……」

「日向リーダーが“彼女を迎えに行く”って言って、飲み会を抜けた話は知ってますか?その時の日向リーダー、柄にもなく結構焦ってたみたいで。いつもクールな彼が、彼女のことになると取り乱すって、それだけ特別な存在ってことですよね」


大沢くんったら、またペラペラと。
だけど彼のお陰で桜佑の印象が変わったのなら、たまにはスピーカーもいい仕事をしてくれる…のかな?


「だからこれからは、おふたりのこと応援します。まだ少し悔しいですけどね」

「井上さん…」

「だけど、もし日向リーダーに泣かされるようなことがあったらすぐに言ってくださいね!その時はファンクラブ会員全員で、彼を潰しに行きます」

「それは心強いです」


若干怖いけど。思わず苦笑した私に、井上さんは「冗談ですよ」と笑みを零す。だけどその目は笑っていなかった。

さすがの桜佑でも、18対1では勝てないだろうな。

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