甘い罠、秘密にキス
09.恋心にキス
井上さん事件から2週間が経った。
数日間続いたモヤモヤの原因が、彼女に対する嫉妬だったのだと気付いてしまったあの日。
夜になり、桜佑に電話で“井上さんは私のファンでした”と報告すると、返ってきたのは『そうらしいな』の一言だった。
自分で“私のファン”と言うのはかなり抵抗があったけど、相談に乗ってもらった手前報告しないわけにもいかず、躊躇しながらも伝えたのに、予想外の返事に唖然とした。
「知ってたの?!」と思わず声を張り上げれば『念の為井上さんがどんな人なのか調べておこうと思って、朝一で大沢に聞いた。そしたらイオ様ファンクラブの会員だって…お前、イオ様って呼ばれてんの?』と半笑いで返されて、その仕事の早さにもはや言葉を失った。
『お前、相変わらず女にモテんのな』
「好きでこうなったわけじゃないけどね」
『まぁ俺的にはそっちの方が助かるけど』
「…どういう意味」
『とりあえず俺はイオ様ファンに刺されないように気を付けるわ。まぁ何言われても手放す気はないけど』
「……」
そんな感じで、他愛のないやりとりを数分。さすがに井上さんに嫉妬した話は出来なかったけど、桜佑との電話を楽しんでいる自分がいた。
たまにはこうして電話するのもいいな、なんて思ったりもしたけれど、その翌日から桜佑は出張や会食などで多忙を極めていて、ゆっくり会うことも話すことも出来ないまま、気付けば2週間が経っていた。
「佐倉さん、この服なんてどうです?パッと見普通のロングドレスですけど、実はパンツタイプなんです。フリーランスでモデルをしている友人から借りた物なので、長さもバッチリだと思うんですけど」
「川瀬さんてモデルの友人がいるの?さすが、すごい人脈…」
今夜はウチの支社の周年パーティーが行われるため、川瀬さんの部屋でいま準備をしているのだけれど…川瀬さんが用意してくれたドレスは、パンツタイプといっても7分丈の袖がレースになっていて、今まで着たことがないタイプのため正直戸惑ってしまう。
「私に似合うかな…」
「大丈夫、絶対似合いますよ。あとこのドレスに合わせたメイクもしちゃいましょ。ついでに髪もいじっていいですか?」
「えっ、それはさすがに…」
「大丈夫ですって。この私に任せてください」