甘い罠、秘密にキス
川瀬さんが自信たっぷりにそう言うから思わず頷いてしまったけれど、正直とても不安だった。
普段はナチュラルメイクしかしないし、髪も幼い頃からずっとショートカットだったから、ヘアアレンジをした事もない。綺麗にドレスアップされた自分が想像出来なくて、さすがの川瀬さんでもこの私を変えるのは無理だと思った。
けれど川瀬さんはそんな私を余所に、手際よく準備を進めていく。とりあえず川瀬さんを信じ、目を瞑ったままじっと座っていると、メイクもヘアアレンジもあっという間に終わってしまった。
そして最後にドレスに着替え、全身鏡の前に立った時、思わず「うそ」と声が出た。
「佐倉さん、めちゃくちゃ綺麗です!モデルさんみたい!」
「……」
これが、私?
大袈裟なようだけど、本当にそう思った。
こんなに濃くアイシャドウを塗ったのも、アイラインを引いたのも勿論初めてで、鏡を見るまで物凄く不安だったのに、視界に飛び込んできた自分は全く違和感がなかった。
いつも寝癖を整えるだけのシンプルなヘアスタイルはコテでふわっと巻かれていて、よく見ると編み込みまでしてある。それもまた自分に合っているから驚きを隠せない。
ドレスもメイクもヘアアレンジも、絶対に自分では選ばないようなものばかりなのに、どれも今の私にピッタリ合っていて、思わず目を見張った。
「川瀬さんって一体何者なの…私じゃないみたいなんだけど」
「何言ってるんですか。私はあまり手を施してないですよ。ほぼ佐倉さんの素材そのままです」
「そんなわけ…」
「もー、佐倉さんは自分の魅力に全く気付いてない!ほんと勿体ない!もっと自信持ってください」
そんなこと言われても無理だ。ずっと男に間違えられてきたのだから。
この格好を薄らハゲ課長が見たら、なんて言うだろう。ていうか、これから会社の人に会うの、めちゃくちゃ照れくさい。
…桜佑は、どう思うのかな。