甘い罠、秘密にキス
パーティーが始まってしまえば、それこそ話をする暇なんてないだろう。こうしてそばで桜佑を見ることも出来なくなるかも。
そう思って、川瀬さんと話をしている桜佑の横顔をこっそりと見つめる。
私、この男と婚約しているんだよね…なんだか不思議な気分だ。
パーティーのあと、少しだけ会えたりしないかな。あとでこっそりメッセージ送ってみようか…いや、片付けもあるし、きっと帰りは遅くなる。今のうちに、目に焼き付けておこう。
「佐倉、危ない」
ふいに桜佑の声が鼓膜を揺らし、我に返った。その直後、誰かの手が腰に触れ、思わず「えっ」と声が漏れた。
どうやら後ろの人とぶつかりそうになっていたらしい。桜佑がすかさず腰に手を回し引き寄せてくれたお陰で、無事にぶつからずに済んだ。
「すみません、ぼーっとしてました」
体は無事だけど、心は重症だ。不意打ちで桜佑の熱を食らい、息が止まりそう。
絶対に顔が赤くなってる。隣には川瀬さんがいるのに、平常心を保てない。
このままではヤバいと、頭の中では分かっているけれど、すぐに離れてしまったその熱を、名残惜しいと思っている自分がいる。
しっかりしろ私。パーティーはこれからだぞ。もっと集中しなきゃ。
「川瀬さん、私…」
──御手洗に行きたい。そう言ってこの場から逃げようとした時だった。
「佐倉さん!」
突如後ろから腕を捕まれ、ビクッと肩が揺れた。弾かれたように振り返ると、キラキラと目を輝かせた井上さんが、私を見上げていた。
「な、なんですかこの尊いお姿は!パーティーが始まる前に、是非写真におさめさせてください!もちろん川瀬さんとツーショットで!あああ尊い…」
桜佑と私の間に割って入ってきた井上さんが、スマホを構える。そしてチラッと桜佑の方を振り返った彼女は「佐倉さんお借りしますね」と含みを持たせながらニコリと笑った。