甘い罠、秘密にキス

「どうぞごゆっくり」と余裕の笑みで返した桜佑はそのまま踵を返してどこかへ行ってしまった。

その背中を見て、少し寂しい気持ちになったけれど、あのまま一緒にいても取り乱すだけだと思うから、結果的に助けられたのかも。


「佐倉さん川瀬さん、急なお願いで申し訳ないです。すぐに撮りますね。はい、こっち向いてくださーい」

「いえいえ、気持ち分かりますよー。今日の佐倉さん、いつにも増して綺麗ですよね。その写真、あとで私にも送ってもらえます?」

「もちろんです!はぁ、川瀬さんもほんとお美しい…おふたりのツーショットが、世界を平和にしますね」


井上さんは口を動かしながらも、パシャパシャと写真を撮っていく。そして川瀬さんは、私に腕を絡ませノリノリでポーズをとっている。


「佐倉さん、もしよろしければこの写真をメンバーで共有してもいいですか?普段はこういったことはしないのですが、ドレスアップしたお姿なんて滅多に見られないので…」

「私は別に構いませんが…」

「メンバー?っていうのが分からないですけど、私も全然大丈夫ですよ」

「神様イオ様川瀬様、本当にありがとうございます家宝にします!」


イオ様ファンクラブの存在を知らない川瀬さんも首を縦に振ると、井上は深々と頭を下げた。

…その写真、あとで私も送ってもらおうかな。


「おふたりのお陰でカメラフォルダが潤いました。本当にありがとうございました」


スマホを抱きしめた井上さんが、にっこりと微笑む。
終始私達を褒めちぎっていた井上さんだけど、彼女もネイビーのワンピースがよく似合っていて、とても綺麗だ。ヒールの靴を履いても小柄なところがまた可愛い。


「あ、そうだ佐倉さん」


何か思い出したように声を発した井上さんが、私の耳元に顔を近付けてくる。怪訝に思いながらも耳を傾けると、井上さんは「あの秘密、ちゃんと守ってますからね」と囁いた。


「ありがとうございます。助かります」

「でも佐倉さん、さっきのはマズいですよ」

「…え?」


さっきのって何だ?知らない間に何かやらかした?


「日向リーダーのこと見すぎです」

「え」

「あんな顔で見てたら、すぐに周りにバレますよ」

「うそ…」

「日向リーダーもニヤけちゃってるし、ふたり揃って危機感なさすぎです。恋をしている可愛い佐倉さんが見れたのは嬉しいですけど、気を付けてくださいね」


確かに桜佑を見つめていた自覚はあるけど、そんなに見てたなんて。
ほんと恥ずかしい…ここからは気を付けよう。

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