甘い罠、秘密にキス
「今の、なに…?」
震える声で尋ねると、桜佑の瞳が微かに揺れた。
「私のこと、本当はどう思ってんの?」
頭の中がぐちゃぐちゃで、ここが会社だということも忘れ、考えるより先に口を開いていた。
胸の奥が苦しくて、口を開いた瞬間から目頭が熱くなる。
「お前いつからここに…」
「確かに私は“可愛い”より“かっこいい”方だと思うし、別にあんたの言ってることは間違ってないけど、私の気持ち知っててそういうこと…」
「ちょっと待て、違うから」
「何が違うの」
「とりあえず場所移すぞ」
私の言葉を遮った桜佑は「こっち来て」と私の腕を引いて誘導してくる。
本当はその手を振りほどいてやりたかった。でも結局抗えないのは、惚れた弱みというやつなのかもしれない。
結局そのまま素直に従い、辿り着いたのは小さな資料室。前に一度、私が桜佑を連れ込んだことのある場所だった。
「伊織」
桜佑の優しい声音が耳に届く。それだけで鼻の奥がツンとしてしまう。
そこには昔のような、温度のない冷たい目も、抑揚のない声もどこにもない。さっきまで昔の桜佑を思い出して腹が立っていたはずなのに、一瞬で心を奪われ、好きという気持ちが込み上げてきそうになる。
「さっきの話、全部聞いた?」
こくりと頷くと、桜佑は眉を下げながら髪をくしゃりと掻き、小さく溜息を吐いた。