甘い罠、秘密にキス

「伊織、あれは本心ではなくて」

「それはどの部分のことを言ってるの?かっこいいって言ったところ?大沢くんに、女らしい人と付き合えって言ったところ?」

「だからそれは、」

「確かに私は初デートでラーメン食べちゃうような女で、そこに可愛さも魅力も感じないかもしれないけど…私の気持ちを知っててあの言葉が出てきたのなら、それは本音なんじゃないの?」

「お前が女らしくなりたいと思ってるのは勿論分かってる。だけど今の状況を考えたら、これ以上注目されるのは…」

「私、桜佑のこと信じてた。昔のことなんて忘れるくらい、今の桜佑は真っ直ぐで良い奴だと思ってた。それなのに、今までくれた言葉とか一気に信じられなくなっちゃった」

「待て、とりあえず俺の…」

「もう嫌だ…頭の中ぐちゃぐちゃ…やっぱ婚約なんてしなけれ…」
「伊織」


遮るように名前を呼んだ桜佑が、私を腕の中に収める。苦しいくらいぎゅっと強く抱き締められ、溢れるように次から次へと出ていた愚痴がやっと止まった。

代わりに出てきたのは一筋の涙で、私の頬をゆっくりと伝う。それと同時に鼻をすすると、桜佑の抱き締める力が更に強くなった。


「頼むから俺の話を聞いて」


顔を見なくても、桜佑が必死に訴えているのが伝わってくる。それに対し何も返事をしないでいると、桜佑はそのまま静かに口を開いた。


「最近周りがお前の話題で盛り上がってんの、知ってる?」

「……」


知ってるよ。私が桜佑に片思いしているっていう…


「“佐倉が綺麗になった”って、色んなとこで話題になってんだよ」

「………ん?」

「お前のこと狙ってるってやつの話も何人か聞いた。周りがそういう目で見てるってこと、伊織は気付いてた?」

「…………………え?」




……………………………………え?

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