甘い罠、秘密にキス
どうして今更なんだろう。私達の関係は、疾うに終わっているのに。
突然語り出した理由が知りたくて、カフェオレの缶を握ったまま思わず尋ねると、藤さんはまたもや眉を下げた。
「ずっと、謝りたかったから」
「謝る…?」
「うん。佐倉ちゃんに、ずっと謝りたいと思ってた」
ずっとって、いつから?謝るって何を?
恐らく付き合っていた時の話なんだろうけど、もう2年も前の話。それをどうして、今このタイミングなんだろう。
「何か謝られるようなこと、藤さんにされましたっけ」
「うん、したよ」
桜佑を意識するようになってから、藤さんとの記憶はだいぶ薄れていた。その記憶をいま、頭の中で必死に辿っている。
けれど殆どが悪いものではなくて、私の心に傷として残ったのは、最後のあの時だけ。あの一瞬の出来事を思い出して、チクリと胸が痛んだ。
「佐倉ちゃん、最近雰囲気変わったでしょ」
「えっ?そう、ですかね…」
唐突に問いかけられ、返事がぎこちなくなった。
どうして謝罪の話からその話に?
なんの脈絡のない言葉に、頭の中にハテナが浮かぶ。
「うん、みんなが噂してる。俺から見ても変わったなって思うし」
「噂…」
「知らない?佐倉ちゃんが綺麗になったって、みんな言ってるよ」
桜佑が言ってたことは、本当だったんだ。
そういう噂が流れていると知ったのは、数時間前のこと。自分ではそこまで変わったという自覚はないけれど、まさかその噂が藤さんの耳にまで入っていたなんて。
「もしかして、恋してる?」
「……」
「佐倉ちゃん、急に変わったから…」
鋭い質問に、息を呑む。
本当のことを言うべきなのか、正直迷った。けれど、何となく自分の気持ちに嘘はつきたくなくて、こくりと小さく頷くと、藤さんは「やっぱり」と独り言のように呟いた。