甘い罠、秘密にキス
「私のこと…女として見ることが出来なかったわけじゃないんですか…?」
考えるより先に言葉にしていた。ずっと聞きたくても聞けなかったはずの言葉が、溢れるように声になっていた。
ずっと黙っていた私が突然口を開いたからか、藤さんは「え?」と零し、目を丸くする。
「あの時最後までしなかったのは、私みたいな女が相手じゃ興奮出来なかったからなのかと…」
「そんなわけない。佐倉ちゃんがめちゃくちゃいい女だからこそ、俺は自分に自信が持てずに逃げたんだ。全部俺の問題で、悪いのは俺だから」
藤さんは私を真っ直ぐ見つめながら、ハッキリと言い切った。その言葉に、嘘があるようには思えなかった。
なんだ、そうだったんだ。てことは、私が勝手に勘違いして、勝手にトラウマになって、ひとりで悩んでただけなんだね。
「まさか佐倉ちゃん、今までずっと自分を責めてたんじゃ…」
「えっ、いや……まぁ、そうですね。私も藤さんと同じで、藤さんが初めての彼氏だったし、自分に自信なんて1ミリもないので、こんな男みたいな女を抱けるわけないよなって…」
「うわぁ、まじか…俺、ほんと最低じゃん。なんであの時ちゃんと説明しなかったんだろ」
ふわふわの髪をくしゃっと掻いた藤さんは、申し訳なさそうに眉を下げながら「本当にごめん」と頭を下げる。けれど私はそんな彼とは反対に、嬉しさや安堵で思わず頬が緩みそうだった。
どうやら私達は、お互い似ていただけだったらしい。藤さんが男らしく見られようと努力していた時、私は好きでもないカフェオレを飲んでみたり、ぺたんこの靴を履いて藤さんの背を越さないようにしてみたり。
お互い自分のことで精一杯で、それでいて本当の自分をさらけ出すことも出来なかった。カッコつけて、背伸びして。そんな関係が、長く続くわけなかったんだ。
理由が分かって、スッキリした。胸の奥に残っていたしこりのような物が、完全に消えてなくなったのか、心がとても軽くなった気がした。