甘い罠、秘密にキス
「そういえば、私も藤さんに謝らないといけないことがあります」
「え?」
「実は私、コーヒーはブラック派なんですよね」
先ほど貰ったカフェオレの缶を藤さんに見せながら「カフェオレの方が可愛いかなって思って」と続けると、藤さんはフッと吹き出し「俺ら、考えること一緒かよ」と眉を下げて笑った。
「だったら、これは返してもらおうかな」
これは俺が飲むから──藤さんはそう言いながら私の手からカフェオレを取り上げると「今日、佐倉ちゃんの告白が成功したら、今度スタバのブラックコーヒーをご馳走するよ」と続けた。
「言いましたね?何がなんでも今日告白しますから」
「うん、全力でぶつかっておいで。応援してる」
藤さんが私の頭をぽんっと撫でる。「ありがとうございます、頑張ります」と返すと、藤さんは満足気に微笑んだあと「よし、俺はもう帰るね」と踵を返した。
その背中に「お疲れ様でした」と声を掛けると、彼は振り返らずに「お疲れ様」と返してくれた。
何だか心がスッキリして、いつの間にか緊張もなくなっていた。あとは桜佑に気持ちを伝えるだけだ。
清々しい気持ちで再び自販機の前に立ち、ブラックコーヒーを2本購入する。勿論、ひとつは桜佑の分。
2本の缶コーヒーを両手に持ち、早足でオフィスに戻る。
(あっ、桜佑…)
無意識に彼の席を確認すると、どうやら会議は終わっていたらしく、桜佑は既にパソコンと向き合っていた。
幸い、いまオフィスには桜佑と私以外誰もいない。
桜佑が先に帰ってしまわくてよかった。と、安堵しながら彼に近付くと、切れ長の目がゆっくりと私を捉えた。