甘い罠、秘密にキス
「アイツがお前に触れたのが、どうしても許せなかった。伊織は伊織で嬉しそうにしてるし」
もしかして、最後に藤さんが頭を軽く撫でた時のこと?桜佑はあの場面を見てたんだ。あの時は既に和解していたから、確かに私たちの空気は和んでいたかも。
そっか、それで気を悪くしてたのか。私からしたら大した出来事ではないけれど…もし反対の立場だったらと思うと胸が痛い。桜佑が他の女の人に触れられているのを見るのは嫌だ。井上さんの時に経験したから、よく分かる。
「…嬉しそうに見えたのかもしれないけど、全然そんなのじゃないよ。私が触れて欲しいと思う人は、ひとりしかいない。でもそれは藤さんじゃない」
涙目になりながら、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。もう二度とすれ違わないように、丁寧に気持ちを言葉にしながら、桜佑の目を真っ直ぐ見つめる。
「…伊織は俺に、どうしても伝えたいことがあるんだっけ」
「…うん」
「さっきはあんな言い方して悪かった。今度はちゃんと聞くから、話してくれるか?」
こくりと頷くと、桜佑が優しく目を細めた。私は、桜佑のこの表情が好きだ。この目に見つめられる時間が、たまらなく好き。だから今なら、全力でぶつかれる。
「私、桜佑が好き」
はっきりと言葉にした瞬間、堰を切ったようにぽろぽろと涙が溢れ出した。そんな私を見て、桜佑は困ったように笑いながら「うん」と頷く。
「私の心を突き動かすのは、いつだって桜佑だけだよ。この気持ちに気付くのに、少し時間がかかっちゃったけど。私の全てを受け止めてくれる桜佑のことが、凄く好き」