甘い罠、秘密にキス
この告白をするために、何度も何度もイメトレをした。笑顔で言うべきなのか、それとも真剣な表情がいいのか。場所は夜景が見える公園か、それとも自宅か。
色んなシチュエーションを想像して、この告白に備えていたはずなのに。結局私は、会社前の歩道で、ボロボロ涙を流しながら伝えてしまった。
涙で滲んだ視界の中、小さく嗚咽を漏らしながら桜佑と視線を重ねる。
徐に伸びてきた手が涙で濡れた私の頬を撫でると、そのままそっとピアスに触れた。
「なんか、変な気分」
桜佑はぽつりと呟くと、ふっと柔らかい笑みを零す。
「お前が俺の前からいなくなった時、もう二度と会うことも出来ないと思ってた」
「……」
「こうして隣にいるだけでも、俺にとっては奇跡みたいなもんなのに。お前の気持ちが俺に向いてるとか、ちょっと信じられなくて…上手く言葉が出てこねえわ」
ぽつぽつと、ぎこちなく言葉を紡いだ桜佑は、ピアスに触れていた指先で、今度は私の涙を拭う。
その熱にまた胸がきゅっとなって、拭ってもらったばかりの目元が、また涙で濡れてしまった。
「それ、嘘じゃねえよな」
「嘘じゃないよ。こんな嘘つかない」
「実はドッキリでしたーって、大きいパネル持ってきたり」
「するわけないでしょ。まぁそれはそれで面白そうだけど」
「あとで“やっぱりなかったことに”って取り消すのはなしだからな。自分の言葉には責任持てよ」
「大丈夫。今の私は素面だから」
──好きだよ、桜佑。
再び言葉にすると、桜佑は照れくさそうに笑いながら「俺も。伊織が好き」と返してくれた。