甘い罠、秘密にキス
「一応婚約してるのに、告白し合ってる私達ってなんか変だね」
「まぁ婚約って言っても、お前を繋ぎ止めておくためだけの一方的な契約だったからな」
一方的…確かにあの時のはかなり無理やりだった。酔った勢いで承諾した私にも責任はあるけれど、こっちは酔い潰れていたのだから、無効にしてくれてもよかったのに。
まぁ、そういう強引なところが桜佑らしくもあるけれど。
「でもそのお陰で今があるから…あの時桜佑が、私のことを諦めなくて良かったよ」
「諦めねえよ。何年もお前だけを見てきて、やっと掴んだチャンスだったんだから」
必死なところが、また私の心を刺激する。嬉しくて、思わず頬が緩んでしまう。
「さっき藤さんにも言われた。雰囲気が変わったねって。でもこれは、全部桜佑のお陰なんだよ。本当に桜佑が私を女にしてくれた」
「俺はなんもしてねえよ。周りの奴らが気付くの遅いだけで、お前は元から綺麗なんだから」
「そんなことない。桜佑がいなかったら、私はずっと変われなかった」
“俺がお前を女にしてやる”
“騙されたと思って、俺に愛されてみたらって話?”
頷いた瞬間、私は桜佑の甘い罠にはまってしまった。
だけどあの時の選択は、きっと間違えてなかったと思う。
「でも最近気付いたことがあって…周りの人に“綺麗”って言われるのも勿論嬉しいんだけど。やっぱり、桜佑から言われるのが一番嬉しい」
「……」
「結局は、特別な人にどう思われたいかなんだよね」
袖で涙を拭いながら笑うと、桜佑はなぜか小さく溜息を吐いた。
「あー…なんでこんな所でそういうこと言うかな。ここじゃさすがにキス出来ねえじゃん」
照れたと思ったら、今度は不貞腐れながらブツブツと呟く。普段は余裕があって、何でもスマートにこなしてしまう男が、今はキスがしたくていじけてる。会社の人がこんな桜佑を知ったら、きっとビックリするだろうな。