甘い罠、秘密にキス
「…だったら、今から桜佑の部屋に行ってもいい?まだ桜佑と一緒にいたいし…ここだと…その…甘えることも出来ないし」
告白した勢いで誘ったのはいいけれど、途中から恥ずかしくて尻すぼみになってしまった。ごにょごにょする私を前に、桜佑はキョトンとしている。それが余計に恥ずかしい。
だって仕方ないじゃない。さっきから桜佑の熱が恋しくてうずうずしている。指先で頬に触れられるくらいじゃ全然足りない。その胸に今すぐに飛び込んで、桜佑の匂いに包まれたいと、心も身体も桜佑を求めているのだから。
「この際だから、俺ん家じゃなくて近くのホテル行くか?俺は家まで待てそうに…」
「ううん、桜佑の部屋がいい」
「即答」
ガクッと肩を落とした桜佑。じろりと睨まれ、思わず息を呑む。
「だって、明日は土曜日でせっかく休みだから、桜佑の部屋だとチェックアウトの時間も気にせずそのままゆっくり出来るでしょ?」
「なるほど、明日も一日中ずっと俺にくっついていたいってことか」
「うっ…ん。そうかもしれない」
「……」
「それに私、桜佑の匂いが好きみたいで。だから、桜佑の部屋の布団で寝たいのかも」
「はああああああぁぁぁぁ~」
なんでここで言うかな。今日一番の深い溜息を吐いた桜佑は、突然バッグからポケットティッシュを取り出すと、私の顔をガシガシ拭いた。
「ちょ、桜佑、痛いって…っ」
「お前最近、小悪魔化してきてねえか?」
「オスゴリラの次は小悪魔?いつになったら普通の人間にしてくれんの」
「安心しろ。もう少ししたら俺の“妻”に変わるから」
「………つま、」
「だって俺ら、今度こそ本当の婚約者だろ?」
「……」
胸がきゅうっとする。
今まで何気なく口にしていた“婚約”という文字。
なんだか今日は、その言葉で胸がいっぱいになる。
好きな人と婚約出来るって、想像以上に幸せなことなんだ。
「ほら、その涙拭け。そんな顔じゃ電車に乗れねえだろ。俺は一刻も早く家に帰ってお前を抱き潰したいんだよ」
「…その前にご飯食べようよ」
桜佑は私の腰を引き寄せると、駅に向かって歩き出す。
「飯はその後」
その横顔を確認すると、にやりと口角が上がっていた。
……私、耐えられるかな。