甘い罠、秘密にキス
桜佑が幼い頃からずっと私を思ってくれていたのは、皇さんがコッソリ教えてくれたら知っていたけど。まさか母とそんなやり取りまでしていたとは。
ずっと私だけを見てた──桜佑はよくそう言ってくれるけど、本当にその通りだったんだ。
桜佑の愛は、どれだけ深いのだろう。桜佑のことを知れば知るほど、好きという気持ちが強くなっていく。
母の前だというのに、心臓が激しく波打って、今すぐその胸に飛び込みたくなる。
「こんな良い男が、こんなに一途に娘のことを思ってくれて、お母さんも嫌な気持ちにはならないし、それにおうちゃんのことも昔から知ってて、根は真面目な子だってことは分かってたから、彼になら伊織を任せられるって思ってた。でも伊織の気持ちも大事だから、ずっと陰ながら見守ってたのよ」
もしかして、母が私の結婚を急かさなかったのはこの事があったからなのかな。
“変な男に捕まるくらいなら結婚しなくていい”と言っていたのは、母も心のどこかで桜佑を信じて待っていたのかも。
「桜佑って…ほんと凄いね…」
なんかもう“凄い”という言葉しか出てこない。
笑うしかない私を見て、桜佑は「凄いだろ」と自信満々に放ちながら優しく目を細める。
「おばさん」
そして桜佑が姿勢を正し、母を真っ直ぐ見据えた。呼ばれた母も、軽く背筋を伸ばし「はい」と答えた。
「おじさんが戻った時に、また改めて挨拶に来るけど…約束通り、伊織を俺に任せてほしい」
桜佑がハッキリと言葉を紡ぐと、母は「…うん、そのつもりよ」と頷いた。
──自然と目頭が熱くなるのを感じた。
「そして、もう息子扱いからも解放してあげて。代わりに俺がおばさんの息子になるから。男手が必要な時はいつでも俺のこと呼んで。すぐに駆け付ける」
「そうね。こんな頼りになる息子が出来るなら、お母さんも安心だわ」