甘い罠、秘密にキス
どうやら田村リーダーが異動する件は、大沢くんの耳には入っていなかったらしい。大沢くんはお喋りだから、きっと秘密にされていたのだろう。
それにしても、日向 伊織か…。声に出されると何だか照れくさい。でも、悪くないね。
「日向 伊織…いいね。早く日向になりたい」
「なら今から提出に行くか?」
「ううん、まだ戸籍謄本を取ってないから無理でしょ」
「急に現実的だな」
お互い見つめ合いながらクスクスと笑ったあと、私の頭を撫でていた手が後頭部に回った。そのまま優しく引き寄せられ、再び唇が重なる。
時折リップ音を鳴らしながら、何度も落ちてくるキスに、次第に身体の力が抜けていく。唇を甘噛みされ、隙間から割って入ってきた舌に自分の舌を絡め取られ、その気持ち良さに思わず身を捩ると、吐息のような声が漏れた。
ゆっくりとその場に押し倒され、鼻先が触れる距離で視線が絡む。私を組み敷いた桜佑の目は熱を孕んでいるけれど、その奥には優しさが見えた。
そんな彼が、心の底から愛しいと思った。
「伊織のこと、今すぐ抱きたい」
「うん、いいよ」
迷うことなく頷くと、桜佑は優しく目を細める。そして私のピアスにそっと口付けると、耳元で「伊織」と穏やかな声を放った。
「親父と別れたあとから、ずっと伊織に会いたくて仕方がなかった。今日はいつも以上にいっぱいお前を感じたい」
「うん…私も早く桜佑と繋がりたい」
いつも以上という言葉に少し反応してしまったけれど、触れたかったのは私も同じ。証人欄が埋まった婚姻届を見た時から、ずっと桜佑とこうしたかった。
いつか夫になる人。そう思うだけで、身体が熱くなる。桜佑に触れたい、桜佑と繋がりたい、
早く入籍したいと、どんどん欲が出てしまう。
つい先日まで気持ちを伝えられなくて悶々としていたのに。気持ちが通じ合ったと思えば今度は籍を入れたいだなんて、本当に贅沢な話だ。
「伊織、入籍はいつがいい?」
「んー、そうだな。いつにしよう。あ、夫婦になるなら引越しもしなきゃね。別々の家は寂しいから」
「そうだな。もう少し大きい部屋を借りるか」
「料理は…頑張って作るよ」
「心配しなくても茶色いメニューで充分だからな」
「結婚式はどうする?私は別にしなくてもいい派なんだけど、せっかくだから写真は撮りたいかな。あ、でも私ドレス似合うかな…」
「似合うに決まってんだろ。絶対綺麗だから安心しろ」
「ほんと?桜佑がそう言ってくれるなら、二着くらい着てみようかな。あとは…」
「なぁ。話は後にして、そろそろいいか?」
唇を塞がれたら最後。
そこからは、桜佑の熱にあっという間に溺れてしまった。