甘い罠、秘密にキス
「俺じゃ何か不満があんのか」
「不満しかないでしょ。さすがにぶっ飛び過ぎててどう突っ込めばいいのか分かんないんだけど」
冗談のくせに、この私に断られたことが気に食わないのか、眉を顰めた桜佑の声は少し低くなった。
ずっといじめていた人間にプライドを傷付けられて怒る気持ちも分かるけど、さすがに冗談がキツイ。
「なんで急にそんな話になるわけ」
「俺と付き合ったらお前は女になれる。俺は自分が一途だっていうのをお前に証明出来る。ほら、利害が一致した………って、おい聞いてんのか」
「あ、ごめん。無意識にピストル探してた」
「は?」
ふと今朝の香菜との電話を思い出して、気付けばポケットを探っていた。もしもピストルを3発撃っていいなら、私はいま、間違いなくこの男に1発撃ち込んでいる。
「女になれるって言い方も変だし、桜佑とそういう関係になったからって自分が変われる保証もない。それにあんたが一途かどうかなんて、別に私は興味がないし…」
「変われるかどうかはやってみないと分かんねえだろ」
「分かんないままでもいいって言ってんの。てかどうしてそんなにムキになってんのよ。あ、分かった。お酒が足りてないんじゃない?」
ほら、飲んで飲んで。テーブルに置いていたグラスを無理やり持たせ、3分の1ほど残っていたお酒を一気に飲ませる。
「桜佑、全然顔に出ないね。次何飲む?強いのいっちゃえ」
そしてそのまま酔い潰れて記憶をなくせばいいのに。
からかってるだけだと分かっていても、桜佑らしくない言葉にジワジワと脈がはやくなっているのが分かる。
明日の朝冷静になった時、変に意識して職場で気まずくなるのも嫌だ。ただでさえ桜佑の存在に心が乱されているというのに。