甘い罠、秘密にキス
「お前話を逸らそうとしてんだろ」
「まさか。仕事でお疲れだろうから、酔ってストレス発散して欲しいなっていう部下の優しい心遣いです」
「だったらお前も飲めよ。なんならどっちが先に潰れるか勝負するか?」
「別にいいけど、私強いよ。酔わせてその辺に捨てて帰ろうとしても無理だからね」
ふん、と余裕の笑みを向けて挑発したのが悪かったのか。どうやら私は、彼の怒りのスイッチを押してしまったらしい。
「言ったな。だったらお前が先に潰れたら、さっきの条件のめよ」
終わらせたはずの話題を再び持ってきた桜佑は、私の返事を聞く前に、勝手にアルコール度数の高いお酒を注文してしまった。
さっきの条件というのは、恐らく桜佑と恋愛をするというやつだ。てことは、私達が付き合うってこと?……え、無理。1ミリも想像出来ない。
「あんた本気?私がどうこうの前に、あんたは私と恋愛出来んの?無理でしょ。そもそも私を女として見れないでしょ。やっぱやめたって言うなら今のうち…」
「そう言って、勝てる自信がないだけだろ」
「は?あんたのために言ってあげてるだけで、私は今までお酒で記憶をなくしたことは…」
「俺にはビビってるようにしか見えねえけどな」
「見くびらないでくれる?じゃあ私が勝ったら何してくれんの」
「奢る」
「あと二度とオスゴリラ発言しないって約束して」
「任せろ」
「言ったね?何度も言うけど自分の言葉に責任持ちなさいよ?後悔しても知らないから」
絶対に勝てる自信があった。若しくは引き分け。負けることなんて絶対ないと思った。
だって“佐倉さんザルだね!”って、何人もの人に言われてきたんだもん。だから酔って記憶をなくすとか、一生経験しないと思ってた。
それなのに──
「俺ら、婚約したの覚えてる?」
───覚えて、ない。