甘い罠、秘密にキス
見知らぬベッドの上。やけに肌寒いと思ったら身につけているのは下着だけ。ガンガンと痛む頭に胃もたれ。完全にやってしまった。
「…悪い夢を見てる」
「夢じゃねえよ」
桜佑らしき人物の声が耳に届く度、目眩がする。酷い冷や汗だ。でもこれは二日酔いのせいではない。全部奴の呪いかも。
「…聴覚の調子が悪いのかな。さっきからあんたが何言ってんのか」
「俺ら婚約したから」
「いやだからもうぶっ飛び過ぎてんだって…」
確かにあの時“私が負けたら桜佑と恋愛する”という約束を交わした。
でも婚約ってなに?順番間違えてない?そもそも天敵と婚約とか、全てがおかしい。
「無理無理無理無理無理無理。後ろ刈り上げてる男は危険だって誰かが言ってた」
「結構な割合だな」
両手で顔を覆って目を瞑る。これでリセットされないかと強く願う。
でも現実は、リセットされるどころか吐き気しか襲ってこない。
ていうか、なんか顔に当たってる。左手に物凄く違和感がある。
「………なに、これ」
恐る恐る瞼を上げて、ぼんやりとした視界の中で自分の左手を捉えた。そして昨晩まではなかったはずのそれの存在に気付いた瞬間、思わず目を見張った。
「婚約って言ったら指輪だろ」
「無理ーーー!」
左手の薬指、私の指より少し大きいサイズのそれは、キラキラとしたダイヤがひとつ、しっかりとくっついていた。
「お前、案外指細いのな」
「待ってほんと色々整理させて…」