甘い罠、秘密にキス
ダメだ、頭が追いつかない。寝起きには刺激が強過ぎる。
もし本当に、酔っ払って楽しくなっちゃってその勢いで結婚の約束をしてしまったのだとしても、どうして指輪が?だってあの時間にジュエリーショップが開いていたとは思えない。それにサイズが合っていないのを見ると、指輪は事前に用意されていた説が濃厚だと思う。
まさか元カノにあげるはずだった指輪を使い回した?自暴自棄になって、私と婚約という暴挙に出てる?
どちらにしても、頭イカれてる。
「と、とりあえずゆっくり話そう。桜佑も酔ってテンションおかしくなって、勢いで変な約束交わしちゃっただけだと思うし」
「普通に狙ってやった事だけど」
「狙っ…?!あ、わ、分かった!これドッキリ企画とかいうやつでしょ!本当は婚約なんてしてなくて、私の反応を見て楽しんでるやつだ!ほんと桜佑は昔っからそういう…」
「音声の証拠も残ってる」
「嘘でしょ?」
そんな脅しは通用しないから。そう言いかけたけれど、桜佑が再生ボタンをタップする方が微かに早かった。
スマホから流れ始めた音声は、間違いなく私と桜佑の声だった。
お前の負けだと言う桜佑に、素直に認める私。お前を幸せに出来るのは俺しかいない的なクサイ言葉のあと、どうせなら婚約しようとぶっ飛んだ発言をした男に、私は“負けたから桜佑に従う”とアッサリ頷いた。
私、男前過ぎません?
「……なかったことに…出来ませんかね?」
いくら何でも、酔った人間にそんな大きな決断を迫るのは反則だと思う。付き合うだけでも結構無理があるのに。ていうかこんな高そうな指輪貰えない。私には似合わない。
「お前、昨日俺になんて言った」
「…え?」
「自分の言葉には責任を持て…だっけ?」
「……」
その部分の記憶もなくなってればよかったのに。まぁしっかりと刻まれてますよね。
「酔ってたら無効っていうルールがあるんですよ」
「俺の中にそんなルールはねえから」
「もうあんたがジャ○アンにしか見えないんだけど」
いつも人を小馬鹿にしたような笑いを向けてくるくせに、こういう時に限ってクスリとも笑わないんですね。お願いだから「ドッキリ大成功~」って大きなパネルを出して、全て嘘だと言ってよ。