甘い罠、秘密にキス

「でも結婚する前からレスはキツいよね。とりあえずこっちから仕掛けてみたら?」

「どうやって?」

「寝込みを襲う」


いくら個室と言っても、躊躇なく放たれる下トークに顔が引き攣る。でもそれを止めることが出来ないのは、みんながここで家庭でのストレスを発散してるって分かってるから。

お互い仕事や家庭があるから、こうして集まれるのは数ヶ月に一度。それまでに話のネタを集め、夜の部が開催されれば決まっていつも旦那や彼氏の愚痴大会になる。

ちなみに子供がいるメンバーで公園に集まる“昼の部”というのもあるらしい。勿論、私に声が掛かったことはない。

私もいつかこの中に入って愚痴を零すようになるのかな。…いや、そもそもそんな相手が見つかるかどうか。


「伊織ー。あんたは相変わらず仕事人間なの?」


小学生の頃から友人、香菜(かな)に声を掛けられハッと我に返った。


「仕事人間ではないよ。ただ気付いたら仕事してるだけで」

「それが仕事人間って言うんじゃない。あんたの生活に潤いを与えるために、今度合コン誘ってあげようか」

「……遠慮しとく」


香菜は私と同じで旦那や彼氏はいない。このメンバーで唯一私と同じ立場にいる人物。

だけど私と違うのは、旦那や彼氏がいなくても、遊ぶ男はいくらでもいるってこと。

スタイルも良くて美人で、飾らない性格は男女問わず人気がある。会社の同期にも言い寄られているらしいし、香菜は昔からよくモテる。

そんな香菜の隣は居心地が良かった。香菜がずっと独身でいてくれるなら、私も一生ひとりでいいかもなんて考えてしまうくらいには。

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