甘い罠、秘密にキス
ちなみにお尻も硬くて小さい。男の人を誘惑出来るようなものではない。って、今はその話はどうでもよくて…
「私みたいな男っぽい女、婚約しても何もいいことなんて…」
「伊織」
隣で頬杖をついて私を見ていた桜佑に、ふいに名前を呼ばれ思わず口を噤んだ。
「男っぽく見られることがそんなにコンプレックス?」
「まぁ、そうだね…」
変わりたいけど、変われない。変わる勇気もなければ、周りに受け入れてもらう自信もない。そうやって何もしないまま、気付けば29歳になっていた。
「昨日も言ったけど、女になりたいならなればいいだろ」
「いやだからどの口が言ってんのって…」
突然桜佑が距離を詰めてきた。伸びてきた手に、思わず身構える。けれどその手は私の髪に優しく触れると、そのままふわりと頭を撫でた。
あの桜佑に、こんな恋人みたいなことされて嫌なはずなのに、不思議とその手を払えない。魔法をかけられたみたいに動けなくなる。
「だから、俺がお前を女にしてやるって言ってんの」
「ちょっと意味が…」
「騙されたと思って、俺に愛されてみたらって話?」
かあっと一気に体温が上昇する。
私ったら、あの桜佑になんて台詞を吐かせているの。
「まぁ別に、お前が一生そのままでも俺は全然構わないけど」
「……」
「つかそっちのが都合いいし」
「…それは、どういう……」
「俺だけがお前の女の部分を知ってたら、それでいいってこと」
心臓が波打つ。私、こんな桜佑知らない。
愛しいものを見るような、こんな優しい目を向けられたのは初めてだ。