甘い罠、秘密にキス
「次またあの薄らハゲに何か言われたら、私には日向リーダーという髪の毛フサフサの素晴らしい婚約者がいますって自慢しとけ」
「遠慮しとく。てかお願いだから私達の関係のこと他の人に言わないでよね」
「俺は別にバレてもいいんだけど」
「異動して早々部下に手を出した男だと思われてもいいの?それに下手したら私が他の部署に飛ばされちゃうじゃない」
「なるほど、俺と一緒に仕事がしたいってことね」
「今の部署を離れたくないだけです」
それに、一応人気のある桜佑とそんな関係になったなんて知られたら、それこそ周りになに言われるか分かんないし。
「次に余計なことしたら、あんたの嫌いなピーマンを大量に部屋に送りつけてやるから」
「俺の嫌いな食べ物覚えてたんだな。愛じゃん」
「敵の弱点を覚えてただけですけど」
「まぁ残念ながらもう食えるけど」
「嘘でしょ」
「てかお前が手料理を振舞ってくれるなら、ピーマンの肉詰めでも無限ピーマンでも何でも食うぞ」
「………バーカ」
もう返す言葉も見付からない。口では勝てない。ふいに彼氏っぽいことを口にするから、尚更言葉に詰まってしまう。
「そのムキになった顔、全然変わってねえよな」
「どうせ変な顔って言いたいんでしょ」
「いや、可愛い」
「んなっ…」
だめだ、翻弄されるな。この男の女を口説き落とすいつものやり方なのかもしれないから。
そう言い聞かせながら何とか平常心を保とうとするのに、勝手に脈がはやくなってく。桜佑の手の平で転がされてる感じがほんとやだ。これじゃ昔と何も変わらないじゃん。
「俺先に戻るわ」
桜佑は悪戯っぽく笑いながら、ぽんっと私の頭を撫で踵を返す。その瞬間、柔軟剤の香りがふわりと鼻先を掠めた。
数時間前までその匂いに包まれていたせいか、今朝のことを思い出してまた顔が熱くなった。