甘い罠、秘密にキス
「佐倉さん、さっきよりゲッソリしましたね」
「やっぱり?」
いつまでこの生活が続くのだろう。それともいつか慣れるのだろうか。
いや、慣れることなんてないな。たった数時間で既に瀕死状態だし。誰か回復方法を教えてください。
「おはよーございまーす」
オフィスに入ってきた伊丹マネージャーが、今日も気の抜ける声で「今日の予定なんですが」と話し始める。
桜佑のことを考えないようにするにはやっぱり仕事しかない。そう気持ちを切り替えて伊丹マネージャーの声に耳を傾ける。
「今日は朝一で会社周辺の清掃作業をする事になりました。落ち葉やゴミを拾う単純作業です。ただ田村リーダーのこともあって、いま営業課はバタバタしているので、うちの部署からの参加は2名程度でいいとのことで…」
「はい、私やります」
すかさず手を挙げた私に、伊丹マネージャーは「では佐倉は決定ね」と首を縦に振る。よかった。これで少しだけ桜佑と離れられる。
オフィスにいるより外で動き回った方が気が楽だ。掃除をして身も心も、そして会社も綺麗にしよう。
「佐倉さんも一緒なら、私もやります」
続いて手を挙げたのは川瀬さんだった。私と目を合わせた彼女は「寒そうですけど頑張りましょうね」とにこりと微笑む。
「え、川瀬さんはやめときなよ。服が汚れても困るし」
「いいえ。川瀬 美玲、佐倉さんにどこまでもついて行きます!」
小さく敬礼する川瀬さんはもはや天使。満面の笑みを向けられ、女の私でさえ心臓を鷲掴みにされてしまう。
「よし、佐倉と川瀬で決定ってことで。ふたりは10分後に外に出て、総務課から説明を受けるように」
「はい」
返事をした後、ふと桜佑と視線がかち合った。さっきのことがあったからか思わずドキッと心臓が跳ねる。けれどそれを悟られないよう平静を装い、すぐに視線を逸らし自席についた。