甘い罠、秘密にキス


「まぁ伊織が合コンに参加したらあんたが女子から一番モテちゃうもんね。その辺の男よりイケメンだし」

「やめてよ。そんな褒められ方しても全然嬉しくないから」


歳をとるにつれて色気が増して、昔よりモテてるのほんとウケる。──香菜がそう茶化すから、思わず鋭い視線を向けた。


「今更女性らしくするなんて無理なんだって」

「だからそう思ってんのはあんただけよ。よく鏡見てみ?めちゃくちゃ綺麗な顔してるんだから。ボーイッシュな格好さえやめれば可愛くなるのに」

「もう“可愛い”が似合う歳でもなくなってきたし、いいんだよこのままで」


とか言って、本当は未だに憧れてるけど。高いヒールの靴やスカート。ロングヘアに、トレンドの可愛らしい小物。

29歳、もうすぐ三十路。最近になって、若いうちにもっとそういう物に触れておけば良かったって後悔することが増えた。


「まぁでも、伊織は合コンなんかで相手を探さなくても昔っから相方(・・)がいるもんね?イケメンなあんたでも受け入れてくれるあの男(・・・)が」

「その言い方いい加減やめてってば。てか受け入れられてたんじゃなくて、からかわれてただけだから」

「あんなの愛情の裏返しじゃない。同じ会社なんでしょ?愛だね~」

「一応同じ会社だけど、向こうは本社だから全く会わないし、愛でもなんでもないです」

「幼馴染と社会人になって再会とか、もはや運命だわ」

「幼馴染って言えるほどの仲じゃないの知ってるでしょ?」

「あんたはあいつと結ばれるために生まれてきたのよ」

「運命どころか、天敵ですけど」


てかもうあの男の話はやめて。そう続けると、香菜は「つまんないなー」と唇を尖らせた。

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