甘い罠、秘密にキス
「あの、大事な話って…?」
会議室にふたりきり。戸惑いながらも一応仕事モードで話し掛けると、桜佑は真剣な面持ちで一枚の書類を渡してきた。
「えっと、これは…」
受け取った紙に視線を移すと、そこにはカレンダーのようなものに文字がぎっしりと埋まっている。
「それ、俺の当面のスケジュールな」
「…え?」
「婚約者には一応予定を伝えておかないとと思って」
え、まさかこれが大事な話?だとしたらわざわざこんな所に連れてこなくたって普通にラインで送ってくれたらいいし、そもそも桜佑のスケジュールなんて私には関係ないというか…。
「何件か接待もあるし、浮気を疑われたら困るから」
「心配しなくても大丈夫だよ。やましいことがあっても絶対に怒らないし、むしろ他の女性にも目を向けてほしいし…」
いや冷静になれ私。つい流されちゃったけど、会社でこんな会話してる場合じゃないわ。
「…以上ですか?でしたら私はこれで失礼…」
「ちょっとこっち座って」
会議室を出ようとしたらすかさず制され、椅子に座るよう促される。まだ何かあるのかと怪訝な目を向けながも、仕方なく従い椅子に腰掛ける。
「手、見せて」
「え、なに」
隣の椅子に腰を下ろし、私と向き合う形になった桜佑は、突然私の右手を取る。不意打ちで戸惑う私の手をじっと見つめる彼は「お、ここだ」と呟くと、ポケットから何かを取り出した。
「なにしてんの」
「怪我してる」
「え?」
どうやらポケットから取り出したのは絆創膏らしく、いつの間にか出血していたところに桜佑はそれを貼ってくれた。
「溝掃除してる時にぶつけたのかも。よく気付いたね」
「お前のことしか見てねえもん」
「……いや、仕事に集中してよ」
この男、本当に頭でも打ってしまったのではないだろうか。今朝からサラッとそういう発言し過ぎでしょ。