甘い罠、秘密にキス

「てか昨日も思ったけど、お前の手綺麗だよな」

「そ、そう…?」


私より大きな手が、時折私の手を優しく撫でる。それが妙に照れくさくて、桜佑に触れられているところがどんどん熱を帯びていく。


「桜佑が優しいと、なんか変な感じ」

「変ってなんだよ」

「調子狂う」

「俺は昔から優しいだろうが」

「それはスルーするわ」


意地悪された方が、腹は立つけどよっぽどマシ。そしたらこの手だってすぐに振り解けるのに。


「今朝からずっと変だよ。桜佑らしくない」


いや、昨晩からか。ふたりで飲みに行ってからずっと変だ。

俺と恋愛してみる?的な発言から桜佑の様子がおかしい。この私と婚約するとか、正気と思えなくて心配になる。

本当に何が目的?私のことが好きっていうのは、絶対嘘だよね。


「俺的にはどの辺が変なのか見当もつかねえな」

「どの辺…例えば、可愛いって言ったりとか…?」

「今まで言わなかっただけで、ずっと思ってたことだけど」

「だからそういうのだって…」


今まで言わなかったなら、これからも言わないでいいのに。どんな反応すればいいのか分からないから困ってんだよ。素直に喜んだら「嘘に決まってんだろ調子乗ってんじゃねーよ」って言われそうな気もするし。


「お前知ってる?植物って毎日褒めてあげるとよく育つって話」

「聞いた事はあるけど」

「それと同じで、お前にも同じようにしたら女になるかなっていう」

「なんか複雑だな」


納得出来るような、そうでないような。要するに、桜佑は私を女にするために褒めてくれてるってことだよね。


「でも俺、嘘は言ってねえよ」

「……」


やっぱ調子狂うな。桜佑の目が見れない。

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