甘い罠、秘密にキス
「ねぇ、大事な話っていうのはもう終わったの?そろそろ戻りたいんだけど」
反撃方法が分からず、今の私は話を逸らすので精一杯。急いで立ち上がろうとすれば、触れられていた手にきゅっと力を込められる。
「週末だし、今日もうち来る?」
「行くわけないでしょ」
勘弁して欲しい。昨日から色々ありすぎて疲労がピークだ。休みの日くらい、ひとりでゆっくり現実逃避させてほしい。
「さっき渡したスケジュールにも書いてあるけど、来週出張があるから出来れば一緒にいたいんだけど」
「無理だって。社宅っていうのも嫌だし」
「だったらふたりで部屋借りる?」
「バカ」
話が飛躍し過ぎてて、いちいちツッコミを入れるのも面倒だわ。
呆れた顔をする私を見て、桜佑は悪戯っぽく笑う。何が本気で何が冗談なのか、イマイチ掴めないから余計に疲れる。
「俺そろそろ行かねえと」
腕時計を確認した桜佑が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。その様子を見ながら、やっと解放される、とほっと胸を撫で下ろした。
「あ、そうだ伊織」
会議室から出ようとした桜佑が、ドアノブに手をかける寸前で何かを思い出したように振り返った。「なに」と小首を傾げる私に、桜佑は静かに口を開く。
「ゼクシィ買っとくわ」
「女子か」
やっぱりどうにかして婚約解消出来ないかな。