甘い罠、秘密にキス
この数日間、桜佑と顔を合わせていなかったからすっかり油断していた。天国のような日々はあっという間に終わってしまったのだ。
それにしても、まさか出張帰りにそのままここに来るなんて。一度家を教えてしまったら、これからも急に訪れるかもしれないってことじゃないか。
控えめに言って無理…一番安らげるはずの我が家なのに…唯一現実から逃れられる場所なのに…。
けれど、一度頷いしまったものは仕方がない。ここは開き直って、来たことを後悔させるような幻滅する手料理を振舞ってやろうじゃないの。
重い腰を上げて、冷蔵庫の中を確認する。……本当に大した物は作れそうにないぞ。
これは後でめちゃくちゃバカにされるやつでは。やっぱお前女じゃねえなって悪態つかれる未来しか見えない。
こんなことならせめて花嫁修業として料理だけでもしておけばよかった。一人暮らしを始めて何年も経つのに、いつもコンビニ弁当やスーパーのお惣菜で済ませていたからダメなんだ。
得意料理はインスタントラーメンと鍋です。なんて、あの男には口が裂けても言えない。なんか悔しいし。
とりあえず落ち着いて、お米だけでも炊こう。本当にピンチになったらウーバーイーツよ。
「見事に茶色いな」
私の渾身の手料理を見た桜佑が、開口一番そう放つ。
「…文句あるなら帰ってよ」
「いや、男飯って感じでお前らしくていいと思う」
「フォローになってないから」
桜佑が来るまで1時間もあったのに、私が用意したのは冷凍庫に入っていた豚肉を焼肉のタレで炒め、ご飯の上に乗っけて丼にしたものとインスタント味噌汁の2品。
やっぱりウーバーイーツにすればよかったと、今更後悔している。