甘い罠、秘密にキス
───ていうか、この状況ヤバくない?
キッチンでひとり食器を洗いながら、ふと思った。
部屋に男の人とふたりきり。しかも相手は、一応婚約者。
手を出されても何もおかしくない状況。むしろ婚約者相手にキスのひとつもしないのは逆に不自然な気もする。
でも相手はあの桜佑。そういう雰囲気が全く想像出来ない。
ご飯は食べ終わったし、明日も仕事だし。そろそろ帰るのかな。まさかお風呂に入るとか言わないよね。それどころか泊まるなんて言い出したら…。
だ、ダメダメ。無理無理。だったらどうやって追い返す?来て早々帰れって言うのも失礼な話なのかな。いや、突然やって来たあいつの方が何倍か失礼だ。
よ、よし、心を鬼にして早く帰れと一言……
「伊織」
「んぎゃ!」
完全に油断していたせいか、驚きすぎて変な声が出た。
いつの間に背後に?全く気配を感じなかったわ。
「な、ななななに」
「何をそんなキョドってんだよ」
「べ、別に?!普通、めちゃくちゃ普通だよ!」
自分が完全に不審者で顔が引き攣る。桜佑が怪訝な目を向けてくるから余計に恥ずかしい。
「ナニカゴヨウデショウカ」
「……」
平静を装いながら尋ねる私に、桜佑は静かに口を開く。
「あのさ」
何を言われるんだろう。ドキドキし過ぎて吐きそうだ。