甘い罠、秘密にキス
「明日寝坊すんなよ」
「……しないよ」
あ、本当に帰るんだ。なんか呆気ないというか、ある意味桜佑らしくないというか。今までがかなり強引だったからか、コートを羽織って帰り支度を始める桜佑を見て、思わず拍子抜けしてしまう。
このシチュエーションで何もしないなんて、やっぱり私みたいな女じゃ欲情しないのかな。でも私が酔い潰れて羽目を外してしまった日、一線を超えたんだよね?それとも、もしかしたらこの男も…。
「…なんだよその顔。もしかして寂しい?」
「べ、別にそんなんじゃないけど」
あれ、私いまどんな顔してたんだろ。
いつの間にかぼーっとしていたらしく、気付いたら桜佑の顔が目の前にあった。
私より10センチ以上背の高い桜佑が、私の顔を覗き込むように腰を折っている。
…桜佑って、意外と睫毛長いんだな。
「おやすみのキスする?」
「するわけないでしょ」
慌てて両手で口元を隠すと、桜佑は「可愛くねえな」と小さく零す。だけど桜佑は離れるどころかまた距離を詰めてくるから、それが無性に恥ずかしくて思わず顔を背けた。
「今日はこっちで許してやるわ」
ボソッと呟いた桜佑が、私の頬に手を添える。「何事だ?!」と頭の中で警報が鳴った直後、頬っぺに何かが触れた。
それが奴の唇だと気付いた時には、悪戯っぽく笑う桜佑と至近距離で視線が重なっていて。
「次はこっちにするから」
ぽかんとする私の唇に、桜佑の指が触れた。