甘い罠、秘密にキス
「持ってるとこを見たことがないってことは、使う勇気がなかったってことだろ?ただこういうのが趣味じゃないだけかもしれないけど、でも男っぽく見られるのがコンプレックスって言ってたから、自分では選べなかっただけなのかと思って」
「……」
まるで全てを見透かしているような言葉に何も言い返せずにいると、桜佑は続けて口を開く。
「昨日も言った通り、俺的にはその色がお前に似合ってると思ったからそれを選んだ。でももし“こんなの使えない”って突き返されたら、その時はこっちと取り替えるつもりだった。ネイビーの方がまだハードル低そうだし?」
「……」
「まぁどっちもいらねえって言われる可能性もあったわけだけど、そうなったらそうなったで諦めたらいい話だし」
あのお土産に、まさかそこまで考えてくれているなんて思わなかった。桜佑が私のコンプレックスを理解した上で、背中を押してくれているのが分かる。
あの日の“俺が女にする”って言葉は、その場のノリとかではなく、全て本気だったんだ。
「あとは今日みたいな時のため。あのハゲが何か仕掛けてくんのは目に見えてたからな。設定に結構無理があったけど、相手が課長でよかったわ」
だから念の為、こっちには名前の刻印しなかった。と、ボールペンをこっちに差し出しながらそう続けた桜佑。おずおずと確認してみると、そこには本当に名前の刻印が入っていなかった。
どこまでも用意周到な彼に、思わず笑みが零れる。
「あとは俺が堂々と使ってたら、お前も気兼ねなく使えるかなーって思ったんだけど。やっぱ俺がこれを持ってると違和感しかないらしく、今日1日色んな人に突っ込まれて大変だった」
そりゃそうでしょ、と心の中で呟きながらも、桜佑から出てくる言葉は全て私のためのものばかりで、胸の奥がぎゅっと締め付けらるのが分かった。