甘い罠、秘密にキス
「私のために色々考えてくれてありがとう。このボールペン、明日も使うから」
桜佑の優しさに触れて、また少し勇気が沸いた。
私が珍しく素直な言葉を紡いだからか、桜佑は優しく目を細めた。
「でも桜佑はもうそのボールペンを使わないでね。お揃いの物を持ってるせいで、川瀬さん達にかなり怪しまれたから」
「別にいいだろ。むしろ婚約者だってハッキリ言ってやれよ」
それも俺の作戦だったのに。と、桜佑はニヤリと口角を上げる。どうやら彼は、私達の関係をどうしても周りにバラしたいらしい。
本当に抜かりない男だ。
「桜佑」
再び桜佑の胸ポケットに戻されたボールペンを見つめながら名前を呼ぶと、桜佑は「ん?」と小首を傾げる。
「桜佑が持ってるそのボールペン、他の子にプレゼントする物だったらどうしようって思ってた」
「は?」
「だから、今の話を聞いて安心した」
他の子にあげる予定のものを、私を庇うためにあの場で使ってしまったんじゃないかと、実は少し心配していた。
私のために用意したものだと知って安堵の息を吐く私と反対に、桜佑は眉間に皺を寄せる。
「俺がどれだけお前のこと好きか、全然分かってねえな」
「え?」
桜佑は自分のデスクに軽く腰掛けると、突然片方の手で私の腰を抱き寄せた。ぐっと距離が縮まり、一気に心拍数が上がる。
しかも桜佑がデスクに座ったことにより、目線が同じになって顔が近い。
「え、ちょ、桜佑…」
「言っただろ。俺は一途なんだって」
「……」
「俺はお前のことしか考えてねえよ」
至近距離でそう囁いた桜佑は、もう片方の手を私の後頭部に添えると、そのまま自分の方へと引き寄せた。「あ」と思った時には唇を奪われていて、咄嗟に息を止めた。
「力入りすぎ」
「だって、」
反論しようとすればまた唇を重ねられ制される。くっついてはすぐ離れ、啄むようなキスを落とされ、思わず力が入ってしまう。
逃げようとしても後頭部に添えられている手が邪魔をする。慣れないキスに身体が熱を帯びる。心臓が激しく波打って、頭が真っ白になりそうだ。