甘い罠、秘密にキス

どうにかしてこの手を振り解き、一刻も早くここから逃げなければと、頭の中で警報が鳴り響く。


「離してください」


焦るな、冷静になれ。心の中で何度も自分に言い聞かせながら、なんとか平常心を保ち言葉を紡ぐ。


「離してやるから、お前が相手しろよ。あ、相手(・・)の意味分かる?」


腕を掴んでいる男がニヤリと笑いながら顔を近付けてくる。その気持ち悪さに背筋がぞくりと震えた。


「まぁ本当はあの子が良かったけどな。お前デカいし色気もないし、すげー萎えそう」

「女相手にヒデーなお前」

「まぁでも今日は激しくしたい気分だし、丁度いいか」


はい最低~。と、ケラケラ笑いながら盛り上がるふたり。その隙に腕を引き抜こうとしたけれど、それに気付いた男に「おい逃げんなよ」と更に力を込められ、その痛さに思わず顔を顰めた。


デカいし色気もないなんて、いちいち言われなくても知っている。相手を萎えさせることくらい自分が一番よく分かってる。

だけど、嘘か本気か分からないけどこんな私を好きだと言う変わった男がいる。その男は、こんな私を可愛いと言って、優しく目を細めたりする。

こんな時に天敵の顔が頭に浮かぶのは悔しいけれど。“私みたいな女”と思う度に、あの男がくれた言葉を思い出す。

この男達との距離が近くなればなるほど、なぜかあの男の存在が大きくなっていく。


こんな状況でおかしいのかもしれないけれど。


──今ものすごく、桜祐に会いたい。

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