甘い罠、秘密にキス
「酔っ払い?それは男…だよな」
「…うん」
「相手は何人?」
「…ふたり」
「ふたり…そいつらに何されたんだよ。手は出されてないか?」
「えっと…大丈夫、大したことは…」
大したことがなければこうして泣きながら助けを求めたりしないのに、思わず隠してしまったのは、川瀬さんのこととか、男に間違われたくだりとか、あまり言いたくなかったから。
咄嗟に視線を逸らすと、すかさず「伊織」と名前を呼ばれ、恐る恐る目を合わせる。
「言いたくないなら、無理には聞かない」
「……」
「ただ、そいつらはどんな顔だった」
「…え?」
「顔の特徴は?あと服装と身長は?今ならまだ近くにいるかも」
「ちょ、ちょっと待って急にそんな」
「くっそイラついてきた。そういうクズは社会的に抹消しねえと。俺が今すぐ見付け出して制裁を…」
「ま、待って、大丈夫、探さなくていいから。もう思い出したくもないし…」
桜佑のブラックなキャラが出てきてる。慌てて止めると「そうだよな、ごめん」と呟いた桜佑は、再び私を抱きしめた。
「こんなことなら迎えに行けばよかった」
桜佑は私の髪をくしゃりと撫で、小さくため息を吐く。その手は少し不器用だけど心地いい。あの酔っ払いの手とは、全然違う。
「ふたり相手とか怖かったよな」
「…こうして来てくれたから、もう大丈夫だよ…」
本気で心配してくれているのが伝わってきて、目頭がじんと熱くなる。
昔の桜佑なら、お前みたいなゴリラが相手される訳ねえだろとか言って、絶対からかってきたと思う。
まさか桜佑の存在に救われる日がくるなんて思わなかった。
過去に囚われて、桜佑を天敵だと言い張っていた自分が恥ずかしい。
もっと今の桜佑と向き合ってみようと思った瞬間だった。