甘い罠、秘密にキス
「桜佑」
マグカップを両手で持ち、コーヒーに視線を落としたまま何故か私の真横に座った桜佑に声を掛ける。肩が触れ合うほどの距離、「ん?」とすぐそばで落ちてきた声に、ぴくりと身体が反応してしまう。
「今日は…その…ありがとう。飲み会、邪魔しちゃってごめんね」
まだ残っていたメンバーに何と断りを入れて出てきたのかは分からないけれど、申し訳ないことをしてしまったと、後悔している自分がいる。
「それは大丈夫だから気にすんな。そろそろ帰るかって話もしてたし」
「でも…」
「それより、俺はお前が連絡くれた事の方が嬉しかったけど」
「……」
「ちゃんと俺のこと呼んでくれた」
桜佑の手が伸びてきて、私の頬に触れる。そのまま覗き込むように視線を合わせてくるから、息が止まりそうになった。
「俺のこと、婚約者って認めてくれた?」
「…認めたわけじゃないけど」
「ないんかい」
「でも、すぐに桜佑が頭に浮かんだ」
「……」
「桜佑に…会いたくなった」
頭がふわふわする。魔法にかけられたみたいに、普段なら絶対言わないような言葉を口にしてしまう。
おかしいな、今日はお酒も少ししか飲んでいないのに。
「…お前、それは狡い」
私が珍しく素直だからか、桜佑の瞳が微かに揺れた。そのまま吸い寄せられるように唇が重なり、すぐに離れたかと思うと今度は至近距離で視線が絡んだ。
顔が熱い。我ながら大胆な発言をしてしまったと、今更恥ずかしくなる。
でも今は、ちゃんと伝えないといけないと思った。
息を切らし、本気で心配しながら駆け付けてくれた桜佑に失礼だと思ったから。