甘い罠、秘密にキス

「今日は何もしないつもりだったのに」


ぽつりと呟いた桜佑は、私の手からコーヒーの入ったマグカップを奪うとそのままテーブルに置いた。

再び熱を孕んだ瞳と視線が重なり、どちらからともなく唇を合わせる。啄むように何度も落とされるキスに、自然と応えていた。

桜佑の熱は、ドキドキするのになぜか落ち着く。頬に触れる手も心地いい。息の仕方を忘れて少し苦しくなるけど、不思議と嫌じゃない。


「お前可愛すぎんだろ」

「……目、腫れてるからあんま見ないで」


優しく目を細めた桜佑に、くしゃりと横顔を撫でられる。

そんな柔らかい笑みをこっちに向けないで。見惚れてしまいそうになるから。


「伊織」


囁くように名前を呼ばれ、何度もキスを落とされる。次第に深くなっていくそれに、思考が奪われてく。


「嫌がんねえの?」


酸欠で少し息が乱れ頭がぼーっとする中、桜佑は困ったように笑いながら尋ねてくる。

お前が止めてくれないと、このまま手を出してしまいそうなんだけど。そう続けた桜佑は、まるで自分からストップをかけるように、私を腕の中に収めた。

桜佑の胸に顔が埋まって息苦しい。だけどなぜか居心地がいい。

──私はこのまま、桜佑とどうしたいんだろう。


「…風呂、入ってくるか?」


あの桜佑と一線を越えるなんてありえないはずなのに、もう終わりなのかと思うと少し寂しく感じた。こんな感覚初めてだ。

そもそも私達は一度身体を重ねているはずなのに、どうして桜佑は躊躇するのだろう。いつも強引なくせに、急に優しさを見せるなんてそれこそ狡いよ。

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