甘い罠、秘密にキス
「そ、その節は大変ご迷惑をおかけしました…」
顔を隠すように頭を下げる。どうしよう、ほんっとうに恥ずかしい。穴があるなら入りたい。
桜佑の前で吐いただけでなく、その汚れた服を洗濯までさせたってどういうこと。てか桜佑のこのお母さんみたいな包容力はなんなの。これじゃどっちが女か分からないんだけど。
いやでも、それならそうとちゃんと言って欲しかった。なんで黙ってたんだ。その時に「汚ねぇんだよ」って悪態つかれた方が、まだ気が楽だったかもしれない。
最悪だ…恥ずかしすぎて桜佑の顔が見れないよ。
「別に気にすんな。お前が吐こうが何しようが、俺は全部受け止められる自信がある」
「いやもう二度とこのようなことは…」
「それに、あの日があったからお前とこうして一緒にいられるわけだし、むしろ吐くほど飲んでくれてありがとうって感じ?」
「なんか複雑…」
肩を落とす私を見て、桜佑は楽しそうにケラケラ笑っている。普通目の前で吐かれたら、婚約どころかドン引きすると思うのに。
でも、そりゃこんな女に欲情しないよね。あの日も抱かなかったんじゃなくて、抱けなかっただけなのかも。
どう見たって女らしいところがひとつもない。普通の人が、そんな私と肌を重ねたいと思うわけがない。
桜佑がいくら変わり者でも、結局はみんな同じ男なんだから。
「…もし、私があの日酔い潰れてなかったら、桜佑は私とそういう事してた?」
「え?」
「それとも、やっぱ私が相手じゃ興奮しない?」
考えるより先に口が動いてた。その答えを聞くのが怖いはずなのに、自然と声になっていた。
胸の奥の小さなキズが、ズキズキと痛む。
それなのに、どうしてこんな質問をしちゃったんだろ。