甘い罠、秘密にキス
「なんだそれ」
低く放たれた声に、ビクりと肩が揺れる。恐る恐る視線を上げると、眉間に皺を寄せた桜佑と目が合った。
「お前なぁ、あの日俺がどれだけ我慢したと思ってんだよ」
はぁ、と深い溜息を吐いた桜佑は、ぎろりと私を睨みながら続けて口を開く。
「好きな女が無防備な姿で寝てて、興奮しねえ男がいるなら逆に教えて欲しいわ。お前のせいで全然眠れなくて、こっちは寝不足で仕事に行ったんですけど?」
「え、そうなの…?」
私が朝目覚めた時、桜佑は既に起きていたけど。もしかしてあれって、私より先に目が覚めたわけじゃなくて、最初から寝ていなかったのだろうか。会社でも元気そうだったから全く気が付かなかった。
「私がベッドを占領したから眠れなかったとかでは…」
「んなわけねぇだろ。お前はちゃんと話を聞いてたのか」
「ぁたっ!」
突如ゴツッとおでこに衝撃を受け、軽く目眩がした。どうやら桜佑が頭突きをしたらしい。
桜佑にとっては小さな攻撃だったのかもしれないけれど、地味に痛い。そういえばこの男、昔みんなに「石頭」って言われていた気がする。
「お前が何をそんな不安げにしてんのか知らねえけど、あの日も今も、こっちは理性保つのに必死なんだが」
「…私、そんな不安げにしてた?」
「おお、バッチリ顔に書いてある。まぁどうせまた“自分は男みたいだから”とか、くだらないこと考えてんだろ」
「……っ」
核心をつかれ、言葉に詰まる。
口を噤んだ私を見て、桜佑は再び腕の中に私を閉じ込めた。
「言っただろ。俺は無理やり女を抱く趣味はねえの。だからお前が心配することは何もないからな」
鼓膜を揺らす声は、本当に桜佑のものかと疑ってしまうほど優しい。だからなのか、心がスっと軽くなっていくのが分かる。
今日の私は、桜佑に助けられてばっかりだ。