結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
 ルキはそっと寝ているベルのチョコレートブラウンの髪に手を伸ばす。柔らかくて触り心地のいい髪をそっと撫でると、ベルは気持ちいいのかふふっとかすかに笑った。
 
「……なん、って……言えばいいのかな、コレ」

 きゅっと胸の奥が掴まれるような、切なくて暖かな感情にルキは戸惑いながら、そっとベルに触れる。

「……うぅ……」

 触り過ぎたのか、ベルが小さくうめき眉間に皺がよる。

「ふふ、ごめんって」

 ルキがそう笑ったところでゆっくりとベルの目が開き、まだ眠たげなアクアマリンの瞳がぼんやりとこちらを見る。

「あれ、ルキ様。どうしました?」

 寝起きの少し掠れたような声でそう言ったベルがキョロキョロと辺りを見回す。

「……うわぁ、まだ途中だったのにぃ。見ましたね?」

 ルキの手に視線を止めたベルはそう文句を述べる。

「ごめん、見てしまった」

「完璧に企画書立ててプレゼンするつもりだったのに」

 少し残念そうに言いながら、楽しげに笑うベルと目が合う。

「ふ、あはっ、ははは……ベル、プレゼンって」

「いや、だって一番分かりやすいかなって」

 思わず吹き出すように笑ったルキに、いい案だと思ったんですがとベルは不服そうな顔をする。

「分かりやすいけども。仕事でもないのに何でこんなに作り込んでるの」

「やるからには全力で、がストラル家のモットーだからですかね?」

 ドヤ顔で計画途中の企画書を握りしめ笑うベルを見ながら、

「何事も全力で楽しもうとするところ。真っ直ぐ向き合おうとしてくれるところ。話を聞こうとしてくれるところ」

 ルキはベルの作ったやる事リストをトンっと指してそう言った。
 そこには、
 
『お互いの良いところを3つ言ってみる』

 そう書かれていた。

「このリストと企画書、俺も一緒に作ってもいい?」

 とルキは尋ねる。
 ベルは驚いたような顔をして、アクアマリンの瞳を瞬かせると、

「書いてみたはいいけれど、真面目に答えられると照れますね」

 はにかんだように笑い、

「いいです、よ? 一緒に作っても」

 チョコレートブラウンの髪を耳にかけながらそう言った。本当に照れているのだろう。ベルの耳が赤くて、ルキはその熱が移ったかのように照れて目を逸らす。

「ルキ様? 顔が赤いですけど?」

 熱測ります? とキョトンと聞いたベルに大丈夫と断りを入れたルキは、

「ベルは? 俺の良いところ3つあげてくれないの?」

 と尋ねる。
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