結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
ベルと一緒に作ったやる事リストで現在実践中なのが『気軽なデート』だった。
と言ってもお互い都合のつく日に仕事上がり少しだけ寄り道をして帰るというだけなのだが。
お互いお気に入りの店を紹介したり、お茶をしたり、その程度なのだがそれだけでも分かることが多々あった。
例えば、生活圏も習慣も違いすぎてこんな関係でなかったら、きっとすれ違うことすらないだろう事とか。
例えば、貴族としての礼儀作法はなんら問題なかったベルが、貴族間で使われる隠語や暗黙のルールには結構疎いとか。
例えば、デートの約束をした日は朝と髪型が違ったり、誕生日にプレゼントした時計をつけてくれているとか。
今まで見落としていた事が沢山見えてきて、それに気づく度にルキはベルから目が離せなくなって行った。
待ち合わせ場所にはすでにベルがいて、こちらに気づいた様子はなく彼女はぼんやりとどこかを眺めていた。
珍しいなと思いながらベルの視線を辿ればその先には花屋があって、所狭しと秋を告げる花が並んでいた。
ベルは花を見るのが好きだし、公爵邸でもよく庭師と話したり庭園をシルヴィアと散歩したりする姿を見るが、その時の楽しそうな表情とは違って、どこか苦しそうにルキには見えた。
「ベル、待たせた」
「……いえ、そんなには」
声をかけたルキに気づくのが遅れ、少し間を開けて返って来た彼女の声はいつもと同じなのに、少しだけ落ち込んでいるように見える。
「何かあった? 具合悪いなら、帰る?」
心配そうにそう声をかけてベルの顔を覗くルキに一瞬驚いたような顔をしたベルは、次の瞬間にはいつものような楽しげな表情で笑い出す。
「真面目に聞いてるんだけど」
不服そうな声でそう言ったルキに、
「ごめん、だって……あのルキが。仕事以外では鈍感で人の変化に疎い、普段びっくりするくらいポンコツのルキがっ……ふふ、開口一番にヒトの体調の心配なんて……あーおっかしい」
ベルは笑いながらそう言った。
「ベ〜ル〜〜!!」
「いや、だって事実だし。でも、ありがとう。……少し、考えごとをしていただけだから」
大丈夫、とアクアマリンの瞳はそう言った。
「考え事って?」
そう聞いたルキの濃紺の瞳をじっと見た後、ベルは一瞬困ったような顔をして目を逸らしたが、いつも通りの笑顔を浮かべ、
「大した事じゃないから」
そう言った。
そうは見えないとルキが言葉を発するより早く、
「男の子かなぁ、女の子かなぁって」
とベルは楽しげに話す。
「何の話?」
「赤ちゃん、できたの。すっごく楽しみ!」
ベビー服とスタイは複数枚あってもいいよね、どんなデザインにしようと話すベルの横でルキは固まる。
子どもができた? 一体誰の?
ベルとは、まだそんな事はしていない。
そもそもベルは婚前交渉しないって言ってなかったか?
などなど思考が駆け巡ったルキは、
「あ、今日は手芸店に行っていい? 生地欲しくて」
と言ったベルの肩を掴んで、
「付き合って1月足らずで浮気は良くないと思う。ていうか、相手誰? とりあえず話し合いしよう」
ものすごく焦ったようにそう言った。
「子どもって……何で」
泣きそうなルキの顔を見ながら、ふっと笑ったベルは、
「ルキ、とりあえず歯食いしばれ?」
それはそれは綺麗にビンタを決めた。
と言ってもお互い都合のつく日に仕事上がり少しだけ寄り道をして帰るというだけなのだが。
お互いお気に入りの店を紹介したり、お茶をしたり、その程度なのだがそれだけでも分かることが多々あった。
例えば、生活圏も習慣も違いすぎてこんな関係でなかったら、きっとすれ違うことすらないだろう事とか。
例えば、貴族としての礼儀作法はなんら問題なかったベルが、貴族間で使われる隠語や暗黙のルールには結構疎いとか。
例えば、デートの約束をした日は朝と髪型が違ったり、誕生日にプレゼントした時計をつけてくれているとか。
今まで見落としていた事が沢山見えてきて、それに気づく度にルキはベルから目が離せなくなって行った。
待ち合わせ場所にはすでにベルがいて、こちらに気づいた様子はなく彼女はぼんやりとどこかを眺めていた。
珍しいなと思いながらベルの視線を辿ればその先には花屋があって、所狭しと秋を告げる花が並んでいた。
ベルは花を見るのが好きだし、公爵邸でもよく庭師と話したり庭園をシルヴィアと散歩したりする姿を見るが、その時の楽しそうな表情とは違って、どこか苦しそうにルキには見えた。
「ベル、待たせた」
「……いえ、そんなには」
声をかけたルキに気づくのが遅れ、少し間を開けて返って来た彼女の声はいつもと同じなのに、少しだけ落ち込んでいるように見える。
「何かあった? 具合悪いなら、帰る?」
心配そうにそう声をかけてベルの顔を覗くルキに一瞬驚いたような顔をしたベルは、次の瞬間にはいつものような楽しげな表情で笑い出す。
「真面目に聞いてるんだけど」
不服そうな声でそう言ったルキに、
「ごめん、だって……あのルキが。仕事以外では鈍感で人の変化に疎い、普段びっくりするくらいポンコツのルキがっ……ふふ、開口一番にヒトの体調の心配なんて……あーおっかしい」
ベルは笑いながらそう言った。
「ベ〜ル〜〜!!」
「いや、だって事実だし。でも、ありがとう。……少し、考えごとをしていただけだから」
大丈夫、とアクアマリンの瞳はそう言った。
「考え事って?」
そう聞いたルキの濃紺の瞳をじっと見た後、ベルは一瞬困ったような顔をして目を逸らしたが、いつも通りの笑顔を浮かべ、
「大した事じゃないから」
そう言った。
そうは見えないとルキが言葉を発するより早く、
「男の子かなぁ、女の子かなぁって」
とベルは楽しげに話す。
「何の話?」
「赤ちゃん、できたの。すっごく楽しみ!」
ベビー服とスタイは複数枚あってもいいよね、どんなデザインにしようと話すベルの横でルキは固まる。
子どもができた? 一体誰の?
ベルとは、まだそんな事はしていない。
そもそもベルは婚前交渉しないって言ってなかったか?
などなど思考が駆け巡ったルキは、
「あ、今日は手芸店に行っていい? 生地欲しくて」
と言ったベルの肩を掴んで、
「付き合って1月足らずで浮気は良くないと思う。ていうか、相手誰? とりあえず話し合いしよう」
ものすごく焦ったようにそう言った。
「子どもって……何で」
泣きそうなルキの顔を見ながら、ふっと笑ったベルは、
「ルキ、とりあえず歯食いしばれ?」
それはそれは綺麗にビンタを決めた。