結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
トントンっとノックがしたので、ベルはそっとドアを開ける。
「どうしたの? ルキ」
もう寝ようかと思うほど遅い時間に彼が尋ねてくる事は稀だ。
不思議そうに尋ねたベルに、入っていいかとルキは尋ねる。
招き入れたルキの手には紅茶の缶があり、ベルにそれを差し出す。
「えーっと、淹れろってこと?」
「本当は、ベルがしてくれたみたいにカモミールミルクティーとか作ろうと思ったんだけど」
「ど?」
「淹れ方が分からなくて、茶葉無駄にしてベルから"食べ物を粗末にする人は嫌いです"って怒られる未来しか見えなかった」
だから素直に茶葉を持って来てみたと言うルキにベルは肩を震わせて笑う。
「分からないなら、メイドさんに淹れてもらったの持ってくるとか、あったじゃない……茶葉って。しかもカモミールじゃないし」
おっかしいと若干涙目になって笑うベルは、
「そんなに笑わなくても。自分で淹れてあげたかったんだよ。できなかったけど!」
温度とか手順とかあるんでしょとやや不貞腐れたようにルキはそう言う。
「ルキって変なとこ素直よね」
クスクス笑ったベルは、
「この部屋は本に囲まれてるから温かいのは私の持ち込みのインスタントしか入れられないかな。厨房で飲み物淹れて来ようか?」
「……インスタントでいいよ。それは今度使って」
そう言われたベルはありがたく茶葉を受け取り礼を述べる。
「それで、どうしたの?」
「ベルの様子が気になって」
ここ数日どこかぼんやりしているところ。
普段なら食事を残さないベルが、食事をあまり取らなかったところ。
おかしいところはいくつもあった。
「俺はどこまでベルの気持ちに踏み込んでいい?」
ルキは優しくそう尋ねる。
「言いたくない事を無理矢理言わせたくはないけど、俺はベルが心配だよ」
ルキはベルと作成中の恋人の真似事やる事リストを取り出して、トンっと指でさす。
『すれ違わないように、気持ちはキチンと言葉にする。ただし強要はしない』
「俺ではベルの力になれない?」
「……ルキは、本当に変わったね」
「え?」
「こんなふうに、相手に踏み込んでくるヒトではなかったでしょう?」
ベルは静かに言葉を口にする。
「俺は、ベルが笑っているといいなって思う。だから、話が聞きたくて」
ベルが許してくれるなら、彼女に近づきたくて。触れたい、と思うのだ。
その気持ちは、日増しに大きくなっていて、無視する事はもうできない。
じっと見てくる濃紺の瞳を見ながら、
「……ママが死んだ時の事を思い出すの。この時期になると。だからこの時期は領地に行くんだけど」
今年は無理かな、ってとベルは淡々と告げる。
「ルキも忙しそうだし、夜会とか出なきゃでしょ。契約婚約者を引き受けている手前。勝手に領地には行けないでしょ? 少し気になってただけだから。聞いてくれて、ありがとう。昔からこの時期は少し不調になりやすいだけだから」
大丈夫とベルは笑う。
そんな彼女のアクアマリンの瞳を見ながら、以前ハルから、
『姉さんは、全部ひとりで抱えちゃうから』
と言われた事を思い出す。
平気なフリは、ずっと自分もしてきたから分かる。フリは、フリでしかなく、決して大丈夫なわけではない、と言うこともルキは知っている。
「どうしたの? ルキ」
もう寝ようかと思うほど遅い時間に彼が尋ねてくる事は稀だ。
不思議そうに尋ねたベルに、入っていいかとルキは尋ねる。
招き入れたルキの手には紅茶の缶があり、ベルにそれを差し出す。
「えーっと、淹れろってこと?」
「本当は、ベルがしてくれたみたいにカモミールミルクティーとか作ろうと思ったんだけど」
「ど?」
「淹れ方が分からなくて、茶葉無駄にしてベルから"食べ物を粗末にする人は嫌いです"って怒られる未来しか見えなかった」
だから素直に茶葉を持って来てみたと言うルキにベルは肩を震わせて笑う。
「分からないなら、メイドさんに淹れてもらったの持ってくるとか、あったじゃない……茶葉って。しかもカモミールじゃないし」
おっかしいと若干涙目になって笑うベルは、
「そんなに笑わなくても。自分で淹れてあげたかったんだよ。できなかったけど!」
温度とか手順とかあるんでしょとやや不貞腐れたようにルキはそう言う。
「ルキって変なとこ素直よね」
クスクス笑ったベルは、
「この部屋は本に囲まれてるから温かいのは私の持ち込みのインスタントしか入れられないかな。厨房で飲み物淹れて来ようか?」
「……インスタントでいいよ。それは今度使って」
そう言われたベルはありがたく茶葉を受け取り礼を述べる。
「それで、どうしたの?」
「ベルの様子が気になって」
ここ数日どこかぼんやりしているところ。
普段なら食事を残さないベルが、食事をあまり取らなかったところ。
おかしいところはいくつもあった。
「俺はどこまでベルの気持ちに踏み込んでいい?」
ルキは優しくそう尋ねる。
「言いたくない事を無理矢理言わせたくはないけど、俺はベルが心配だよ」
ルキはベルと作成中の恋人の真似事やる事リストを取り出して、トンっと指でさす。
『すれ違わないように、気持ちはキチンと言葉にする。ただし強要はしない』
「俺ではベルの力になれない?」
「……ルキは、本当に変わったね」
「え?」
「こんなふうに、相手に踏み込んでくるヒトではなかったでしょう?」
ベルは静かに言葉を口にする。
「俺は、ベルが笑っているといいなって思う。だから、話が聞きたくて」
ベルが許してくれるなら、彼女に近づきたくて。触れたい、と思うのだ。
その気持ちは、日増しに大きくなっていて、無視する事はもうできない。
じっと見てくる濃紺の瞳を見ながら、
「……ママが死んだ時の事を思い出すの。この時期になると。だからこの時期は領地に行くんだけど」
今年は無理かな、ってとベルは淡々と告げる。
「ルキも忙しそうだし、夜会とか出なきゃでしょ。契約婚約者を引き受けている手前。勝手に領地には行けないでしょ? 少し気になってただけだから。聞いてくれて、ありがとう。昔からこの時期は少し不調になりやすいだけだから」
大丈夫とベルは笑う。
そんな彼女のアクアマリンの瞳を見ながら、以前ハルから、
『姉さんは、全部ひとりで抱えちゃうから』
と言われた事を思い出す。
平気なフリは、ずっと自分もしてきたから分かる。フリは、フリでしかなく、決して大丈夫なわけではない、と言うこともルキは知っている。