結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「ベル、行こうか」
ルキはそっと指先をベルに伸ばし、彼女の頬に触れる。その頬はヒヤリと冷たくて、ルキは何だか苦しくなった。
「行くって」
「ストラル領。俺も行っていい?」
ルキの申し出にベルは目を見開く。
「ダメだよ。今、ルキ忙しいでしょ」
そう言ったベルに、
「仕事は何とか調整つけられるから。3〜4日くらいなら」
大丈夫とルキは言い切る。
「いや、うち馬車で3日はかかるんだけど」
時間足らないよ、とベルは却下するが、
「空路で行けば数時間でしょ?」
とルキは言い返す。
「一般利用の直行便が存在しないだけで、あるよね? だってストラル伯爵が成り上がったのは飛竜による空路開拓なんだから」
詳細全部伏せられてるからどうやって飛竜を手懐けたかまでは分からないけど、とルキはそう言う。
「飛竜の空路開拓。お兄様が関わってるの伏せてあったはずなんだけど、どこ情報?」
「公爵家の情報網」
なるほど、と納得したようにベルはため息をつく。
「そんなわけで伯爵を紹介して欲しいな。交渉は俺がするから」
どのみち他領に足を踏み入れるなら一報必要だし、というルキにベルはしばらく考えて、
「私から話すわ。飛竜の事は内緒なの。黙っていてくれると嬉しいな」
と言った。
「すごい発見だろ? 大々的に伯爵名義で公表すれば利益だって名誉だって独り占めできただろうに」
今のように成金貴族だなんて言われる事もなかったのに、なぜそうしなかったんだと不思議そうにそう尋ねるルキに、
「そんなことしたら、周りがうるさくて仕方ないじゃない。ただでさえ陞爵の話が来てお兄様嫌がってるのに」
うちは借金返せただけでいいのとベルは笑う。
かつてストラル伯爵は飛竜による空路を広く一般に普及させることと飛竜の保護、自分が関わっている事を伏せることを条件として、飛竜飼育の研究結果と空路使用権を国に売った。
それはほんの一部の人しか知らないこの国の謎の1つ。
「何で陞爵嫌なの?」
「陞爵したら"伯爵"って呼んでもらえなくなるからよ」
意味がわからないと言う顔をするルキにベルは、
「なんか、ちょっと元気出た。ありがとう」
と礼を言ってクスッと笑い、ルキが頬に触れていた手に自分の手を重なる。
そんなふうに笑うベルを見ていたら、ぎゅっと胸が苦しくなり心音がうるさくて、急に彼女の事を抱きしめたくなる。
「ルキ?」
首を傾げたベルに手を伸ばしたくなる衝動を抑えたルキは、
「せっかくだからストラル領、案内して。ベルの事が知りたい」
と静かにそう言った。
「じゃあ面白いところ、案内してあげる。公爵領みたいに栄えた街ではないんだけど、自然はいっぱいで今は良いところだから」
そう約束したベルが、兄の許しを得てストラル領に里帰りすることになったのは、それから1週間後の事だった。
ルキはそっと指先をベルに伸ばし、彼女の頬に触れる。その頬はヒヤリと冷たくて、ルキは何だか苦しくなった。
「行くって」
「ストラル領。俺も行っていい?」
ルキの申し出にベルは目を見開く。
「ダメだよ。今、ルキ忙しいでしょ」
そう言ったベルに、
「仕事は何とか調整つけられるから。3〜4日くらいなら」
大丈夫とルキは言い切る。
「いや、うち馬車で3日はかかるんだけど」
時間足らないよ、とベルは却下するが、
「空路で行けば数時間でしょ?」
とルキは言い返す。
「一般利用の直行便が存在しないだけで、あるよね? だってストラル伯爵が成り上がったのは飛竜による空路開拓なんだから」
詳細全部伏せられてるからどうやって飛竜を手懐けたかまでは分からないけど、とルキはそう言う。
「飛竜の空路開拓。お兄様が関わってるの伏せてあったはずなんだけど、どこ情報?」
「公爵家の情報網」
なるほど、と納得したようにベルはため息をつく。
「そんなわけで伯爵を紹介して欲しいな。交渉は俺がするから」
どのみち他領に足を踏み入れるなら一報必要だし、というルキにベルはしばらく考えて、
「私から話すわ。飛竜の事は内緒なの。黙っていてくれると嬉しいな」
と言った。
「すごい発見だろ? 大々的に伯爵名義で公表すれば利益だって名誉だって独り占めできただろうに」
今のように成金貴族だなんて言われる事もなかったのに、なぜそうしなかったんだと不思議そうにそう尋ねるルキに、
「そんなことしたら、周りがうるさくて仕方ないじゃない。ただでさえ陞爵の話が来てお兄様嫌がってるのに」
うちは借金返せただけでいいのとベルは笑う。
かつてストラル伯爵は飛竜による空路を広く一般に普及させることと飛竜の保護、自分が関わっている事を伏せることを条件として、飛竜飼育の研究結果と空路使用権を国に売った。
それはほんの一部の人しか知らないこの国の謎の1つ。
「何で陞爵嫌なの?」
「陞爵したら"伯爵"って呼んでもらえなくなるからよ」
意味がわからないと言う顔をするルキにベルは、
「なんか、ちょっと元気出た。ありがとう」
と礼を言ってクスッと笑い、ルキが頬に触れていた手に自分の手を重なる。
そんなふうに笑うベルを見ていたら、ぎゅっと胸が苦しくなり心音がうるさくて、急に彼女の事を抱きしめたくなる。
「ルキ?」
首を傾げたベルに手を伸ばしたくなる衝動を抑えたルキは、
「せっかくだからストラル領、案内して。ベルの事が知りたい」
と静かにそう言った。
「じゃあ面白いところ、案内してあげる。公爵領みたいに栄えた街ではないんだけど、自然はいっぱいで今は良いところだから」
そう約束したベルが、兄の許しを得てストラル領に里帰りすることになったのは、それから1週間後の事だった。