結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜

その14、伯爵令嬢と里帰り。

 ストラル伯爵領は非常に自然が豊かでゆったりとしたところだった。
 王都から領地まで運んでくれた飛龍以外にも領地には様々な種類の飛龍がいて、どの個体もとても懐っこく穏やかな性格をしていた。
 そんなストラル領地を訪れて本日で滞在2日目。
 机に突っ伏したルキに、疲労回復効果のある薬草茶を出しながら、

「ルキ、大丈夫?」

 と申し訳なさそうにベルは尋ねる。
 ベルもこうなった状況に少々責任を感じているため、薬草茶以外にも軽くつまめる甘いお菓子を差し出した。

「……平気。だけど、まさか他領に来てこんなにガッツリ働かされるとは思わなかった」

 薬草茶を口にして、苦いと文句を言ったルキはそれでも残すことなくそれを飲み干す。

「えっと、お義母様がごめんね。ルキの事もすぐバレちゃったし」

「それは別にいいんだけど、やっぱり事前にキチンと連絡を入れた上で正式にご挨拶させてもらうべきだった、と後悔はしてる」

 ベルの手作りお菓子を美味しそうに食べながら、公爵家嫡男としても社会人としてもやっぱり筋は通すべきだったなとルキは苦笑して、出来上がった最後の書類をベルに渡した。

「……契約婚約は1年だけの話だし、うち王都からだいぶ遠いから隠し通せるかなぁって思ってたんだけど、甘かったわ」

 ベルはさすがお義母様と苦笑気味にそう言った。

*******

 ストラル領地を訪れる前、先代伯爵夫人へのご挨拶の品はどうしようとルキから相談を受けた。

「え? ご挨拶って、何の挨拶する気なの?」

 きょとんと聞き返すベルに、

「何のって、仮にも婚約してるわけだし、今は一応お付き合い中なわけで、先代伯爵夫人はベルの育ての親だろ? その上急に押しかけて滞在中は伯爵家のお世話になるわけだから、ここはきちんとしておくべきだろう」

 と至極真っ当なことを言う。
 何でも用意するから何でも言ってと言うルキを見ながら、

「あーそれなんだけど……内緒にして欲しいなぁーって」

 ベルにしては珍しく歯切れ悪くそう言った。

「内緒?」

 自分の言葉に首を傾げ訝しげな視線を送ってくるルキの視線に耐えかねて、

「言ってないの。お義母様に、婚約した事もあと3ヶ月で破局予定だって事も。何なら今ルキとお別れ前提でお付き合いしてることは家族も含め誰にも言ってない」

 当然、伯爵領の使用人たちも知らないわと観念したようにベルは白状した。
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