結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
「分かった、とりあえず俺からは言わないよ」

 そう約束したルキに、

「ありがとう!」

 ホッとしたような顔で笑顔を浮かべたベルを見ていたら、少しだけささくれだった気持ちが落ち着いた。


 ルキにも口止めをしたし、契約婚約については隠し通すつもり……だった。

「ベル、おかえりなさい」

 出迎えてくれた義母に変わりはないようで、ベルは懐かしさを感じながら、

「お久しぶりです、お義母様」

 淑女らしく礼をしてみせる。

「まぁ、ベル。少し会わない間にとても所作が綺麗になったわね」

 驚いたようにそう褒めてくれる義母に嬉しそうな顔をしたベルは、仕事で知り合った友人なのとルキを紹介する。
 挨拶をしたルキに、

「ストラル伯爵領へようこそお越しくださいました。ベルの母のサラ・ストラルと申します」

 目を引くほど美しい動作で礼を返す。
 先代伯爵夫人サラの所作はとてもきれいで、ベルに一通りのマナーや礼儀作法を教えたのが彼女なのだととても納得できた。
 一通り話が済み落ち着いたところで、

「ところでベル、あなた今氷の貴公子を誑かした悪女って噂が流れているの、知っているかしら?」

 にこっと義母がそう尋ねる。

「悪……女?」

「ストラル領まで届いてますよ、あなたの悪女ぶり」

 夜会で色んなお嬢様たち蹴散らしているそうですねと微笑む義母に、

「えー! 何それ、悪女!! カッコいい!」

 悪女って響きが素敵と笑うベルに、

「ベル、何でちょっと嬉しそうなの!? 誑かされてませんから」

 ルキは止める。

「それじゃ、ベル。あなた達の本当の関係と王都での話を聞かせてもらおうかしら? 母は娘の自主性に任せて9ヶ月も口出しせず待ってましたよ?」

 場合によっては即座に領地に連れ戻しますよ? とにこやかに告げられ、義母に契約婚約が即バレした。
 その後ベルは義母にこってり叱られた後、ペナルティとして振られた仕事をようやく終わらせた。

「サラ夫人、強いな」

「実質今うちの領地仕切ってるのお義母様だから」

 ベルの巻き添えであれこれ仕事を振られたルキは苦笑しながらそれらを手伝い、今のこの領地の現状を把握した。
 おそらく見た方が早いと判断してそれらを回してくれたのだろうが、知りたいならついでに仕事も手伝えだなんてなんともベルの義母らしい。

「ごめんね、休暇で来てるのにガツガツ手伝わせて」

「いや、働かざる者食うべからずってその通りだなって」

 勉強になったし、面白い内容だったとルキは笑った。
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