結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
地図に示されたそこは少し高台にある見晴らしのとてもいい静かな場所で、真っ黒なフードを被って小さく疼くまるベルの背中を見つけた。
「…………ママ」
風に乗ってベルの小さなつぶやきが流れてきた。
そっと後ろに立てば彼女の肩が小さく震えているのが目に入る。
きっと、いつもひとりでこうしていたのだろうとルキは思いながらベルの肩に上着をかけた。
驚いて振り返ったベルは泣きそうな顔をしていて、
「……どう、して?」
とかろうじて聞き取れるくらいの音量でそうつぶやいた。
「ここにいるって、サラ夫人が教えてくれたから」
結構風が出て来たね、とルキはいつもと変わらない口調で話しかける。
「せっかく来たんだ。ベルの自慢のもう一人のお母さんにもご挨拶させて欲しくて」
「……でも、ママはあなたが一番嫌いなタイプの人間でしょ」
無理に来なくてよかったのに、と淡々と硬い声でベルはそう言った。
ベルの実母は貴族の愛人で、世間的に褒められた人ではないのかもしれない。
ルキの中に略奪愛や不倫への嫌悪感やその果てに生まれた庶子に偏見があったのは確かだ。
だけど、それでもこの人は、ベルにとって大事な人で。
この人がいなければ、ベルもハルも生まれていないわけで。
「……正直、全部を肯定的に捉える事はできないんだけど」
俺は聖人君子じゃないから、とルキはゆっくり言葉を口にする。
「多分、俺の好き嫌いなんてどうでもよくて」
何もしない外野からの身勝手な噂や批判にはなんの価値もない。
当事者にしか分からない事を、他人が正義ヅラして断罪する権利などどこにもないのだとルキは思う。
「俺が今自信を持って言えるのは、俺の婚約者がベルで良かったって事とベルが今俺の隣にいてくれて嬉しいって事だけなんだ」
ルキはベルのチョコレートブラウンの髪に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。
「だから、ベルを産んでくれたお母さんに感謝してる。それじゃ挨拶する理由にはならないかな?」
黙ったままじっとルキの言葉を聞いていたベルが目を瞬かせると、そこから涙が流れ落ちる。そっと指でその涙を拭ったルキが、
「ダメかな?」
と尋ねるとベルはフルフルと首を振る。
ベルから了承のとれたルキは彼女の隣で静かに手を合わせた。
「ありがとう、来てくれて」
「お礼を言われるような事はしてないけど。ベルが終わるまで、隣で待っていていい?」
ベルは小さく頷いて、膝を抱えたまま目を閉じる。
ルキは急かす事なく、ただずっとベルが立ち上がるまで静かに横に居続けた。
「…………ママ」
風に乗ってベルの小さなつぶやきが流れてきた。
そっと後ろに立てば彼女の肩が小さく震えているのが目に入る。
きっと、いつもひとりでこうしていたのだろうとルキは思いながらベルの肩に上着をかけた。
驚いて振り返ったベルは泣きそうな顔をしていて、
「……どう、して?」
とかろうじて聞き取れるくらいの音量でそうつぶやいた。
「ここにいるって、サラ夫人が教えてくれたから」
結構風が出て来たね、とルキはいつもと変わらない口調で話しかける。
「せっかく来たんだ。ベルの自慢のもう一人のお母さんにもご挨拶させて欲しくて」
「……でも、ママはあなたが一番嫌いなタイプの人間でしょ」
無理に来なくてよかったのに、と淡々と硬い声でベルはそう言った。
ベルの実母は貴族の愛人で、世間的に褒められた人ではないのかもしれない。
ルキの中に略奪愛や不倫への嫌悪感やその果てに生まれた庶子に偏見があったのは確かだ。
だけど、それでもこの人は、ベルにとって大事な人で。
この人がいなければ、ベルもハルも生まれていないわけで。
「……正直、全部を肯定的に捉える事はできないんだけど」
俺は聖人君子じゃないから、とルキはゆっくり言葉を口にする。
「多分、俺の好き嫌いなんてどうでもよくて」
何もしない外野からの身勝手な噂や批判にはなんの価値もない。
当事者にしか分からない事を、他人が正義ヅラして断罪する権利などどこにもないのだとルキは思う。
「俺が今自信を持って言えるのは、俺の婚約者がベルで良かったって事とベルが今俺の隣にいてくれて嬉しいって事だけなんだ」
ルキはベルのチョコレートブラウンの髪に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。
「だから、ベルを産んでくれたお母さんに感謝してる。それじゃ挨拶する理由にはならないかな?」
黙ったままじっとルキの言葉を聞いていたベルが目を瞬かせると、そこから涙が流れ落ちる。そっと指でその涙を拭ったルキが、
「ダメかな?」
と尋ねるとベルはフルフルと首を振る。
ベルから了承のとれたルキは彼女の隣で静かに手を合わせた。
「ありがとう、来てくれて」
「お礼を言われるような事はしてないけど。ベルが終わるまで、隣で待っていていい?」
ベルは小さく頷いて、膝を抱えたまま目を閉じる。
ルキは急かす事なく、ただずっとベルが立ち上がるまで静かに横に居続けた。