結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
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ナジェリー王国第二王女、エステル・ディ・ナジェリーは正直憂鬱だった。華々しいパーティーの場など苦手だし、ダンスも正直得意な方ではない。
ましてや人と話す事もあまり得意ではなく、外交の場など回れ右して逃走したくなる。
そんな事をするくらいなら鉱物を眺める時間に当てたかった。
キラキラと輝く宝石になる原石。それだけでも心躍るのに、どれひとつとっても同じ石など存在しない長い時間をかけて生み出された奇跡のような限りある資源に子どもの頃から魅了されていた。
だから、衝撃だった。宝石になれなかった石達が廃棄されるという現実が。
高く売れるものでなければ価値がない。それが、まるで自分に向けられた言葉のようで悲しかった。
大輪のバラと称される姉のアネッサのように人の間をヒラリヒラリと渡り歩けないエステルは、16歳を迎えるというのに縁談ひとつ来なかった。
そんな内気で石ばかり眺めている自分を心配した父からの命令で、今回の外交に姉と共に行く事になったが、当日になってもやっぱり気乗りしなかった。
なんなら他国の地を踏んだ今ですら船を追いかけて逃走したい気持ちでいっぱいだ。
「エステル、あなたまたそんなカケラを眺めているの?」
気持ちを落ち着けようと小瓶に詰めてこっそり持って来た、カッティングする際出た宝石の小さなカケラを眺めていたら、ため息交じりに苦言が落ちて来た。
「……お姉様」
「エステル鉱物もいいけれど、もう少し人間にも興味を持って頂戴」
アネッサは可愛い妹の優しい色合いの赤毛を撫でると、
「ほら、この国ってやたらと王族多いじゃない? あなたと年の釣り合う方もいらっしゃるし、あなたきちんとした格好をすればとても可愛いんだから素敵な出会いがあるかも! って期待したりしない?」
「……ないですね。こんな鉱物オタクに興味持ってくださる方なんていないでしょうし、私他国になんて嫁ぎたくないです」
だって他国に嫁いだら素敵な鉱物との出会いを逃してしまうと真剣に訴える妹にため息を漏らして、
「うん、じゃあ最低限社交は頑張りましょう。私が嫁いだら、あなた本当に一人ぼっちよ?」
今回これが非公式の姉の見合いである事は知っている。何かと気にかけてくれる姉がいなくなったら、と考えると確かに怖くはあるのだが。
「エステル、石以外のお友達も作りましょうね? あちらの国の貴族令嬢、令息との親睦会があるんだし」
エステルは正直に言って上手くやれる気が1ミリもしなかった。
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ナジェリー王国第二王女、エステル・ディ・ナジェリーは正直憂鬱だった。華々しいパーティーの場など苦手だし、ダンスも正直得意な方ではない。
ましてや人と話す事もあまり得意ではなく、外交の場など回れ右して逃走したくなる。
そんな事をするくらいなら鉱物を眺める時間に当てたかった。
キラキラと輝く宝石になる原石。それだけでも心躍るのに、どれひとつとっても同じ石など存在しない長い時間をかけて生み出された奇跡のような限りある資源に子どもの頃から魅了されていた。
だから、衝撃だった。宝石になれなかった石達が廃棄されるという現実が。
高く売れるものでなければ価値がない。それが、まるで自分に向けられた言葉のようで悲しかった。
大輪のバラと称される姉のアネッサのように人の間をヒラリヒラリと渡り歩けないエステルは、16歳を迎えるというのに縁談ひとつ来なかった。
そんな内気で石ばかり眺めている自分を心配した父からの命令で、今回の外交に姉と共に行く事になったが、当日になってもやっぱり気乗りしなかった。
なんなら他国の地を踏んだ今ですら船を追いかけて逃走したい気持ちでいっぱいだ。
「エステル、あなたまたそんなカケラを眺めているの?」
気持ちを落ち着けようと小瓶に詰めてこっそり持って来た、カッティングする際出た宝石の小さなカケラを眺めていたら、ため息交じりに苦言が落ちて来た。
「……お姉様」
「エステル鉱物もいいけれど、もう少し人間にも興味を持って頂戴」
アネッサは可愛い妹の優しい色合いの赤毛を撫でると、
「ほら、この国ってやたらと王族多いじゃない? あなたと年の釣り合う方もいらっしゃるし、あなたきちんとした格好をすればとても可愛いんだから素敵な出会いがあるかも! って期待したりしない?」
「……ないですね。こんな鉱物オタクに興味持ってくださる方なんていないでしょうし、私他国になんて嫁ぎたくないです」
だって他国に嫁いだら素敵な鉱物との出会いを逃してしまうと真剣に訴える妹にため息を漏らして、
「うん、じゃあ最低限社交は頑張りましょう。私が嫁いだら、あなた本当に一人ぼっちよ?」
今回これが非公式の姉の見合いである事は知っている。何かと気にかけてくれる姉がいなくなったら、と考えると確かに怖くはあるのだが。
「エステル、石以外のお友達も作りましょうね? あちらの国の貴族令嬢、令息との親睦会があるんだし」
エステルは正直に言って上手くやれる気が1ミリもしなかった。
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