結婚しないために婚約したのに、契約相手に懐かれた件について。〜契約満了後は速やかに婚約破棄願います〜
ベルが用意してくれたのは鮭の切り身を使ったお茶漬けだった。
ベルが淹れてくれた温かいお茶を飲むととてもホッとする。
「ごめん、何かやる事あったんでしょ?」
「今日はもういいかな。お店の内装の打ち合わせの資料見たかっただけだし」
「店……ってベルの?」
「うん。貸衣装店舗だけだけど。これだけで独立するのは厳しいから、今まで通りお兄様の会社で働きつつ、とりあえず1店舗春にオープン予定」
これから忙しくなるなぁとワクワクしながら語るベルを見ながら少し寂しくなる。
ベルの夢が一つ形になるのはいい事なのに、素直に祝ってあげられない。
「美味しくなかった? タイ茶漬け気に入ってたから、作ったけど」
ベルに尋ねられ、ルキは手が止まっていたことに気づき食事を再開する。あっさりした優しい味付けで、塩分が疲れた身体に染みる。
「……美味しい。ものすごく悔しいけど、美味しい」
太ったらどうしてくれるの? と文句を言うルキに、
「ふふ、ルキは痩せすぎだからちょっとくらい肉……っていうか体力と筋力つけなさい? あとよく食べていっぱい寝る。で、楽しく仕事!」
それでオールオッケーとベルは親指を立てた。
「……ベルが日に日に2次元にしか存在しないタイプのお母さん化していく」
「いや、現実にいるお母さんもこんな感じ……じゃなくて! 誰がオカンよ。シル様だって私と8つしか変わらないのに」
こんなに大きな子どもいないわよとベルは真面目に言い返す。
「シル様からしたってせめて姉でしょ」
年齢的にそこまで年取ってなければ包容力もないと訴えるベルに、
「姉、ね」
とルキは嬉しそうに微笑む。
「どうしたのよ?」
「んー鮭茶漬けも美味しいなぁって」
疑問符の浮かんだアクアマリンの瞳を見ながらルキはクスっと笑う。
シルヴィアの"姉"と言うことは、自分と家族になるということだ。ベルにとっては深い意味のない発言だったとしても、そんな事ですら嬉しくなる。
彼女の一言で一喜一憂するのだから、この感情はなんて厄介で、どうしようもなく手放し難くて、愛おしい。
そして、本当にベルと家族になれたらいいのに、と思ってしまった。
「そんなもので良ければまた今度作るよ」
「楽しみにしてる」
今度と当たり前に約束できる関係が嬉しい。そして、これから先もそんな日々を望むなら。
「ベル、今回の仕事が全部終わってひと段落したら、ちゃんとしたデートをしよう」
ルキはそう提案する。
ベルに気持ちを伝えないことには何も始まらない、とルキは決意する。
「ちゃんとした……って?」
「ベルの好きな雑貨屋さんとか、ドレスショップとか、ああ動植物園でもいいな、そんなところに行って、美味しい物を食べて、夜景でも見に行こうか」
どうかなと聞かれたベルは少し考えて、
「じゃあルキの行きたいところも入れよう。美術館とか、大きな書店とか」
と了承した。
まるで最後の思い出作りみたいだなんて思ったベルは、少しだけ胸がチクっと痛んだのを無視して、
「……楽しみにしてるから、お仕事無理しない範囲で頑張って」
と笑ってルキにエールを送る。
「うん、ベルもお店の準備楽しんで」
ルキは今度は素直にそう応援できた。
この仕事をやり終えたら、"契約婚約"の解除を申し出よう。
ルキは静かに決意して、残りの鮭茶漬けを食べ切った。
ベルが淹れてくれた温かいお茶を飲むととてもホッとする。
「ごめん、何かやる事あったんでしょ?」
「今日はもういいかな。お店の内装の打ち合わせの資料見たかっただけだし」
「店……ってベルの?」
「うん。貸衣装店舗だけだけど。これだけで独立するのは厳しいから、今まで通りお兄様の会社で働きつつ、とりあえず1店舗春にオープン予定」
これから忙しくなるなぁとワクワクしながら語るベルを見ながら少し寂しくなる。
ベルの夢が一つ形になるのはいい事なのに、素直に祝ってあげられない。
「美味しくなかった? タイ茶漬け気に入ってたから、作ったけど」
ベルに尋ねられ、ルキは手が止まっていたことに気づき食事を再開する。あっさりした優しい味付けで、塩分が疲れた身体に染みる。
「……美味しい。ものすごく悔しいけど、美味しい」
太ったらどうしてくれるの? と文句を言うルキに、
「ふふ、ルキは痩せすぎだからちょっとくらい肉……っていうか体力と筋力つけなさい? あとよく食べていっぱい寝る。で、楽しく仕事!」
それでオールオッケーとベルは親指を立てた。
「……ベルが日に日に2次元にしか存在しないタイプのお母さん化していく」
「いや、現実にいるお母さんもこんな感じ……じゃなくて! 誰がオカンよ。シル様だって私と8つしか変わらないのに」
こんなに大きな子どもいないわよとベルは真面目に言い返す。
「シル様からしたってせめて姉でしょ」
年齢的にそこまで年取ってなければ包容力もないと訴えるベルに、
「姉、ね」
とルキは嬉しそうに微笑む。
「どうしたのよ?」
「んー鮭茶漬けも美味しいなぁって」
疑問符の浮かんだアクアマリンの瞳を見ながらルキはクスっと笑う。
シルヴィアの"姉"と言うことは、自分と家族になるということだ。ベルにとっては深い意味のない発言だったとしても、そんな事ですら嬉しくなる。
彼女の一言で一喜一憂するのだから、この感情はなんて厄介で、どうしようもなく手放し難くて、愛おしい。
そして、本当にベルと家族になれたらいいのに、と思ってしまった。
「そんなもので良ければまた今度作るよ」
「楽しみにしてる」
今度と当たり前に約束できる関係が嬉しい。そして、これから先もそんな日々を望むなら。
「ベル、今回の仕事が全部終わってひと段落したら、ちゃんとしたデートをしよう」
ルキはそう提案する。
ベルに気持ちを伝えないことには何も始まらない、とルキは決意する。
「ちゃんとした……って?」
「ベルの好きな雑貨屋さんとか、ドレスショップとか、ああ動植物園でもいいな、そんなところに行って、美味しい物を食べて、夜景でも見に行こうか」
どうかなと聞かれたベルは少し考えて、
「じゃあルキの行きたいところも入れよう。美術館とか、大きな書店とか」
と了承した。
まるで最後の思い出作りみたいだなんて思ったベルは、少しだけ胸がチクっと痛んだのを無視して、
「……楽しみにしてるから、お仕事無理しない範囲で頑張って」
と笑ってルキにエールを送る。
「うん、ベルもお店の準備楽しんで」
ルキは今度は素直にそう応援できた。
この仕事をやり終えたら、"契約婚約"の解除を申し出よう。
ルキは静かに決意して、残りの鮭茶漬けを食べ切った。